小さなお子さんの耳掃除中、奥まで耳かき棒を突っ込んでしまい、子どもがギャン泣きしてしまった…
このような経験のあるパパやママは意外と多いかもしれません。
外傷性鼓膜穿孔は、耳かきや綿棒が鼓膜に当たって穴が開いてしまう怪我の1つです。
子どもが急に動いたり、親御さんの耳掃除中にぶつかったりしたときによく起こります。
その他、転倒やスポーツによる衝撃でも鼓膜に穴が相手しまうことがあります。
外傷性鼓膜穿孔は、多くの場合、自然に治ることが多いですが、放置すると感染や聴力低下などのリスクも。
この記事では、外傷性鼓膜穿孔の原因や治療法、放置した場合の注意点について、耳鼻咽喉科専門医の視点からわかりやすく解説します。
目次
外傷性鼓膜穿孔(がいしょうせいこまくせんこう)とは?
外傷性鼓膜穿孔とは、外からの衝撃や圧力、怪我などにより耳の鼓膜に穴が空いてしまう状態のことです。
鼓膜は耳の奥にある薄い膜で、外の音を耳の中に伝える重要な役割を担っています。
しかしながら、鼓膜は約0.1mmと非常に薄いため、耳かき棒で誤って突いてしまったり、スポーツ、ケンカなどの衝撃で破れてしまったりすることは珍しくありません。
外傷性鼓膜穿孔の原因
外傷性鼓膜穿孔の原因はさまざまですが、大きく分けて直達性(直接的な原因)と介達性(空気の圧力など間接的な原因)の2つに分けられます。
その中でも、最も多い原因は直達性の1つである耳掃除によるものでした。
これは、岩手医科大学耳鼻咽喉科が2000年~200年まで実施した臨床研究の調査でも明らかとなっています。
原因の詳細 | 症例 | |
---|---|---|
直接的な原因(直達性) 103例 |
耳掃除による損傷 | 93例 |
その他 (木の枝が耳に入るなど) |
10例 | |
間接的な原因(介達性) 62例 |
平手打ちや殴打によるもの | 33例 |
スポーツ時の外傷 | 17例 | |
交通事故 | 3例 | |
転倒・転落 | 6例 | |
その他 | 3例 |
2000年~2008年の9年間で、岩手医科大学耳鼻咽喉科を受診した外傷性鼓膜穿孔の患者さんは165例。
そのうち、耳掃除が原因の外傷性鼓膜穿孔は93例と56%を占めています。
外傷性鼓膜穿孔の症状
外傷性鼓膜穿孔の症状は次の通りです。
- 耳痛
- 出血
- 耳鳴り
- めまい
- 難聴
外傷性鼓膜穿孔の主な症状は、受傷直後の激しい耳痛と出血です。また耳が詰まったような感覚や耳鳴りを伴うことがあります。
外からの圧力や衝撃が大きいと内耳まで損傷が及ぶため、回転性めまいやふらつき起こすこともあるため注意が必要です。
また交通事故など耳への衝撃が強い場合、外傷性鼓膜穿孔だけでなく、耳小骨連鎖離断を引き起こしている可能性もあります。
耳小骨連鎖離断とは、中耳にある3つの耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)の連結が外傷などで断たれた状態のことを指します。
耳小骨の連結が断たれると、音の伝達が上手くいかず、難聴の原因となるため注意が必要です。
外傷性鼓膜穿孔の検査方法
外傷性鼓膜穿孔の検査は、鼓膜の状態を直接観察する耳鏡検査が基本です。
必要に応じて顕微鏡検査や内視鏡検査が実施されます。
合わせて聴力検査もおこなわれ、伝音難聴や感音難聴がないかもチェックされます。
交通事故など強い力が耳に加わったときは、耳小骨連鎖離断の可能性があるため、CT検査が行われることもあります。
一方で、感染症のリスクや鼓膜の穴の拡大を防ぐため、耳内の洗浄や気圧変化を伴う検査は、避けられるようです。
外傷性鼓膜穿孔の治療法
外傷性鼓膜穿孔が見られた場合、まずは耳内を清拭し、感染予防のための抗生物質投与を数日行います。
耳痛が強い場合は、痛み止めが処方されることもあるでしょう。
鼓膜の穿孔は、感染がなければ90%が1ヶ月以内で自然に閉鎖するため、しばらく経過観察します。
2カ月以上たっても鼓膜がふさがらない場合は、鼓膜形成術等の手術を行う場合もあります。
外傷性鼓膜穿孔の治療のための手術法は次の2つです。
鼓膜形成術
鼓膜形成術とは外傷により空いた穴を、筋膜などで塞ぐ手術法です。
鼓膜の穴の大きさにより、アンダーレイ法か接着法のどちらかが選択されます。
アンダーレイ法
鼓膜の穴の空いた部分に、移植弁を付けて穴を塞ぐ治療法です。
移植弁には、耳後部から採取した筋膜を使用します。
鼓膜の形成材料を固定するため、術後1週間は耳の中にガーゼを入れておかなければならず(パッキングといいます)、基本的に入院が必要です。
接着法
アンダーレイ法と同じ手術法ですが、残存鼓膜と移植弁をつないで固定するのにフィブリン糊を使用するため、術後のパッキングが不要となります。
そのため、日帰りまたは1泊程度の入院で手術可能です。
最近はリティンパRという鼓膜穿孔の治療剤も使用されており、わざわざ移植弁を採取する必要がない治療もあります。
鼓室形成術
外傷性鼓膜穿孔だけでなく、耳小骨連鎖離断も見られた場合は、鼓室形成術と呼ばれる手術が行われます。
離断した部分を再度つなぐような手術になります。手術後、約3ヵ月で聴力が安定します。
外傷性鼓膜穿孔を放置したときのリスク
外傷性鼓膜穿孔の治療は、多くの場合、鼓膜がふさがるまで経過観察します。
けれども、病院受診しなくてもよいというわけではありません。
外傷性鼓膜穿孔の症状が軽傷で、鼓膜に空いた穴が小さかったとしても、放置するとさまざまなリスクが生じるためです。
ここからは、外傷性鼓膜穿孔を放置したときのリスクを詳しく見てみましょう。
感染症リスク
外傷性鼓膜穿孔を放置すると、感染症のリスクが高まります。
鼓膜に穴が空いている状態では、細菌やウイルスが中耳腔に侵入しやすくなるためです。
これにより、中耳炎を発症しやすく持続的に耳だれ(耳漏)や耳痛が生じます。
治療が長引く
外傷性鼓膜穿孔は、早期に適切な治療を受ければ自然治癒率は90%と高くなります。
しかしながら、治療せず放置して3ヵ月以上経つと、治癒が困難になるため注意が必要です。
放置期間が長ければ長くなるほど、鼓膜形成術が必要になる可能性が高まります。
感染症により中耳炎を発症するとさらに治療が長引く恐れがあります。
外リンパろうの危険性
交通事故やケンカなど強い衝撃や圧力が耳にかかると、内耳まで損傷してしまうことがあります。
内耳が損傷すると外リンパろう発症のリスクが高まるため注意が必要です。
外リンパろうは、悪化してしまうと治療しても耳鳴りや難聴、めまいが後遺症として残ることがあります。
日常生活にも大きな支障が出る可能性があるため注意が必要です。
※外リンパろうの内部リンク外傷性鼓膜穿孔でよくある質問とその回答
外傷性鼓膜穿孔のよくある質問とその回答を院長先生にお答えいただきましょう!
Q1:外傷性鼓膜穿孔は手術が必要になるケースは多いのでしょうか?
基本的には本文中にあるように自然閉鎖することがほとんどで、手術が必要となることはあまりありません。
Q2:外傷性鼓膜穿孔の治療中は、飛行機への搭乗は控えるべきでしょうか?悪化しますか?
基本的にはあまり気にしなくて良いとおもいます。
Q3:外傷性鼓膜穿孔の後遺症は何があるの?
小骨の離断や外リンパ漏を伴う場合などは完全に聴力が回復しない場合もありますが、単なる鼓膜穿孔であれば、あまり後遺症は残らないと思われます。
まとめ
外耳と中耳を隔てる鼓膜は、0.1㎜と非常に薄く耳かき棒で付くとすぐに破れてしまいます。
小さな子どもの耳の中は狭く、耳掃除をしようと覗いてもなかなか奥まで見えません。
つい勢いあまって耳掃除中に我が子の鼓膜を付いてしまうパパやママも少なくないでしょう。
またスポーツやケンカなど外から強い力が加わったときも鼓膜は破れやすいので注意が必要です。
- 外傷性鼓膜穿孔の多くは耳掃除が原因で起こる
- 外傷性鼓膜穿孔は多くの場合経過観察で治癒するが、感染症リスクがあるので病院受診は必須
- 経過観察で2カ月以上経っても鼓膜の穴がふさがらないときは手術で塞ぐ場合もあり
外傷性鼓膜穿孔で鼓膜に穴が開くと強い耳痛が生じるので、多くの人は耳鼻咽喉科へ受診するはずです。
しかしながら、市販薬で我慢して病院受診を後回しにする人も中にはいるでしょう。
外傷性鼓膜穿孔を放置してしまうと難聴のリスクが高くなったり、治療が長引いたりすることもあるため、早めに病院受診しましょう。
福岡市東区名島にお住まいで、子どもの耳掃除で誤って外傷性鼓膜穿孔の疑いがあるときは、あだち耳鼻咽喉科へお越しください。
あだち耳鼻咽喉科では、小児の外傷性鼓膜穿孔の検査も対応しております。
外傷性鼓膜穿孔でなくても鼓膜が傷ついてしまうと耳痛や耳だれが生じることがあります。
子どもの耳は感染症にかかりやすいため、病院受診をして抗生物質投与など適切な処置をしてもらいましょう。
