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みみ

音響性難聴とは?若者でも発症する原因や症状・予防法を解説

日常生活の中で、ふとした瞬間に「耳が詰まった感じがする」「最近、音が聞き取りづらい」と感じたことはありませんか?

スマートフォンやイヤホンの普及、ライブやコンサートへの参加、さらには職場や街中の騒音――現代社会では、私たちの耳は知らず知らずのうちに強い音や大きな音にさらされています。

こうした環境が引き起こす「音響性難聴」は、20~40代の若い世代でも決して他人事ではありません。

この記事では、耳鼻咽喉科専門医の立場から、音響性難聴の仕組みや症状、早期発見・予防のポイントについて分かりやすく解説します。

音響性難聴とは?

音響性難聴とは、強い音や大きな音にさらされることにより、内耳に障害が生じ、聴力が低下する感音性難聴の1つです。

音響性難聴を発症するメカニズムは次の通りです。

音響性難聴を発症するメカニズム
  1. 大きな音や強い音(爆発音・コンサート・工場騒音)に耳がさらされる
  2. 音の振動が外耳から鼓膜、中耳を経て内耳の蝸牛へ伝わる
  3. 強大な音や長時間の騒音により、蝸牛の有毛細胞やその先端の「聴毛」が物理的・機械的に損傷
  4. 有毛細胞やその先端の「聴毛」が音の振動を捉えられなくなり聴力が低下

音響性難聴は原因によって急性音響性聴器障害【広義の音響外傷】と【騒音性難聴】などの慢性音響性聴器障害の2つに大別されます。

  広義の音響外傷 騒音性難聴
発症原因 短時間に非常に大きな音(爆発音、銃声、ライブ等) 長期間にわたり大きな音(工場、建設現場、音楽等)
発症までの時間 急性(瞬間的・短時間) 慢性(数年~十数年かけて徐々に進行)
主な発症部位 片耳に多い(音源に近い耳) 両耳が同程度に障害される
主な症状 難聴・耳鳴り・耳閉感(直後から出現) 難聴・耳鳴り(徐々に進行、初期は高音域から)
治療効果 早期治療で回復する場合あり 一度発症すると回復困難、予防が重要

それぞれ詳しく見ていきましょう。

音響外傷とは?

音響外傷は爆発音や銃声、音響など、突発的または短時間に非常に大きな音(120dB~130dB以上)にさらされたり、コンサート会場や大音量のヘッドフォンなど100dB以上で長時間さらされたりしたときに生じる聴覚障害です。

大きな音にさらされた直後に現れる主な症状
  • 耳鳴り
  • 難聴(高音域での聴力低下が多い)
  • 耳の閉塞感
  • 聞こえが悪くなる
  • めまい・ふらつき

音響外傷の症状は多くの場合一時的ですが、長引いたり重症化したりすると後遺症が残ることもあるため注意が必要です。

音響外傷の治療と注意点

音響外傷は、突発性難聴の治療と同じく、ステロイド薬(副腎皮質ホルモン薬)や点滴治療が実施されます。治療期間は通常、1~2週間程度です。

発症から早期に治療を開始すると、聴力回復の可能性が高まります。

また難聴が回復しても、耳鳴りなどの後遺症が残る場合があり、経過観察が必要です。

再発や悪化を防ぐため、耳栓の使用や静かな環境で過ごすようにしましょう。

なお、蝸牛内で音を脳に伝える有毛細胞は一度損傷してしまうと再生しません。爆発音などの強大音にさらされた場合、回復が難しい場合もあります。

治療開始が遅れると回復が難しくなるため、大きな音にさらされた翌日も耳鳴りや難聴が続く場合は、最寄りの耳鼻咽喉科を早めに受診しましょう。

騒音性難聴

騒音性難聴は、85dB以上の大きな音に長期間・長時間さらされることによって、内耳の有毛細胞が損傷し、徐々に聴力が低下する感音難聴の1つです。

継続的な騒音により、内耳の蝸牛にある有毛細胞がダメージを受け、抜け落ちることで生じます。

騒音性難聴の症状は次の通りです。

症状 詳細
難聴 初期には高音域特に4000Hzを中心に聞き取りにくくなり、進行すると会話音域まで聞き取りにくくなる。両耳に同程度の難聴が出現。
耳鳴り 初期に耳鳴りを自覚する。金属音のような高音の耳鳴りが両耳に生じる。
音の歪み 大きな音が割れてやかましく聞こえる、言葉の識別が悪くなる。

騒音性難聴は、発症しても初期は自覚症状が乏しく、日常生活に支障がありません。

気づいた時には既に進行していることもあるため注意が必要です。

進行すると徐々に会話が聞き取りづらくなり、生活に支障が出ます。

騒音性難聴の治療法はない

爆発音や突発的な大音響による、急性難聴の音響外傷では、早期のステロイド治療により、聴力が戻る場合もありますが、改善の可能性は高くはありません。

有毛細胞を中心に物理的に非可逆性の損傷をうけるためです。

また、長期間の騒音によって発症した騒音性難聴では、ステロイド治療をしても聴力の回復は見込めません。

慢性的な騒音で損傷した内耳の有毛細胞は、治療をしても元に戻らないためです。

内耳の有毛細胞が損傷する前に、治療を開始することで難聴の進行を抑えられます。

WHOが警鐘を鳴らす騒音性難聴

世界保健機関(WHO)は、騒音性難聴(Noise-Induced Hearing Loss, NIHL)の深刻なリスクについて、国際社会に強い警鐘を鳴らしています。

スマートフォンやオーディオプレーヤーなどの音響機器を使い、大音量で長時間音楽を聴く若者が増えている現状を受け、WHOは「世界の12~35歳の若者の約11億人が難聴のリスクにさらされている」と警告しているのです。

WHOのデータでは、世界で聴覚障害を持つ人は全人口の5%以上に当たる約4億6600万人で、このうちの3400万人が子どもです。

このまま放置すれば、2050年には世界の聴覚障害者は9億人を超えるとWHOは推定しています。

WHOの安全な音量基準

WHO(世界保健機関)は若年層の聴力低下を防ぐため、2019年に「安全な音量」の基準を発表しました。

その主な内容は以下の通りです。

WHOの安全な音量基準
  • 大人の場合:地下鉄車内程度の音量である80dBなら、1週間に40時間までが安全な範囲
  • 子どもの場合:75dBの音量で、同じく週40時間までが推奨
  • 85dBの場合:これより大きな音量では安全に聴ける時間が短くなり、85dBの場合は1日8時間までが目安
  • 100dBの場合:非常に大きな音量である100dBの場合は、1日15分が限度

また、WHOは国際電気通信連合(ITU)と協力し、「WHO-ITU基準」を策定しました。

これにより、オーディオ機器メーカーには、利用者がどのくらいの音量でどれだけの時間音楽を聴いているかを記録・警告する機能や、自動的に音量を制限する機能の搭載が推奨されています。

音響性難聴の予防法

爆発音や発砲音など、音響外傷の原因となる突然の大きな音を避けるのはむずかしいかもしれません。

しかしながら、長期間大きな音にさらされることで発症する騒音性難聴は、環境を変えたり、耳に負担のない生活を心がけたりすることで、予防することができます。

ここからは、音響性難聴の1つである騒音性難聴の予防方法について詳しくみていきましょう。

音量を下げる

ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴く場合、音量はできるだけ小さく設定しましょう。

WHOは80dB(地下鉄車内程度)を週40時間まで(子どもは75dB)を推奨しています。

また、音量を下げた後も長時間聞き続けないことが重要です。

1時間ごとに10分程度は耳を休ませるなど、定期的に休憩をとりましょう。

機器の機能を活用

最近のオーディオ機器には、音量の制限や聴取時間の管理機能が搭載されているものもあります。

音楽を聴くときは、これらの機能を積極的に活用し、耳の負担を最小限に音楽を楽しみましょう。

防音保護具の活用

工事現場やライブ会場など、仕事の都合上、大きな音が避けられないこともあるでしょう。

この場合は、耳栓や防音イヤーマフなどの保護具を使用してください。

また休憩時間は、騒音環境から離れて耳を休ませる時間を設けることも大事です。

定期的な聴力検査

騒音性難聴は、軽度の場合自覚症状がほとんどなく、聞こえづらさを感じたときには、既に難聴が進んでしまっていることも少なくありません。

長時間、大きな音にさらされる方やイヤフォンで音楽を聴く方は、定期的に耳鼻咽喉科へ受診し、聴力検査をしましょう。

音響性難聴でよくある質問とその回答

音響性難聴でよくある質問とその回答を院長先生にお答えいただきます。

生活習慣(過労・睡眠不足・飲酒など)は音響性難聴の発症に影響しますか?

あまり関係ないように思います。

難聴の進行を止めることはできますか?

騒音性難聴の場合は環境を変えることやヘッドホンの音量を調整するなどの工夫で進行を防ぐことは可能と考えます。

まとめ

音響性難聴は、爆発音やコンサート、大音量のイヤホンなど強い音にさらされることで内耳が傷つき、聴力が低下する疾患です。

急性の「音響外傷」と、長期間の騒音による「騒音性難聴」に分かれ、前者は早期治療で回復することもありますが、後者は予防が重要です。

まとめ
  • 音響性難聴は音伝える蝸牛の有用細胞の破損によって起こる
  • 蝸牛の有用細胞は破損したら元に戻らないため騒音性難聴の治療法はない
  • 騒音性難聴はWHOでも警鐘を鳴らしており若者に注意を呼びかけている

音響性難聴の1つである騒音性難聴は、WHOも若年層のリスク増加を警告しており、音量を下げる、耳栓の活用、定期的な聴力検査など日常的な予防が大切です。

耳の違和感が続くときは、早めに最寄りの耳鼻咽喉科を受診しましょう。

福岡市東区名島にお住まいで、工事現場やコンサート会場など大きな音にさらされて仕事をしている方、イヤフォンを長時間使うことの多い方はあだち耳鼻咽喉科へお越しください。

騒音性難聴は、気づかないうちに進行していることも多いので、定期的な聴力検査をしましょう。

また、爆発音や発砲音、コンサート会場など突発的に大きな音にさらされて、耳に違和感をおぼえるときも、迷わずお越しください。

音響外傷は、早期治療で聴力を回復させることが可能です。

「たいしたことないから…」と思わずに、積極的に受診しましょう。

ABOUT ME
【執筆・監修】医療法人あだち耳鼻咽喉科 院長 安達一雄
日本耳鼻咽喉科学会 / 専門医・指導医 身体障害者福祉法第15条指定医
補聴器認定医 / 補聴器適合判定医 / 九州大学耳鼻咽喉科 特任助教
国際医療福祉大学非常勤講師