突然めまいに襲われた経験はありませんか?
立ちくらみや貧血でくらくらとめまいを感じたことがある方もいるかもしれません。
しかし、めまいの中には前触れもなく突発的に自分自身や周囲がぐるぐると回り出すようなめまいが、長く続くこともあるので注意が必要です。
このような長く続くめまいは、もしかすると前庭神経炎といわれる疾患かもしれません。
前庭神経炎はめまいの持続時間が長いため、おう吐や吐き気などが伴い、場合によってはふらふらするようなめまいが数ヶ月から1年ほど続くこともあります。
死に至ることはありませんが、人によって一定期間苦しい症状が続きます。
今回は、前庭神経炎の症状や原因、効果的な治療法などについて見ていきましょう。
目次
前庭神経って?
前庭神経炎とは、その名の通り、前庭神経に炎症が起こる疾患のことです。
しかし、そもそも前庭神経をご存じない方も多いですよね。
内耳にある前庭と三半規管で体の傾きの感覚を感じ取り、それを脳に伝える神経が前庭神経です。
左右の耳にひとつずつあり、体のバランスをとるのに重要な役割を果たしています。
前庭神経炎ではどんな症状があらわれる?
前庭神経炎では、症状が激しくあらわれる急性期には、救急車で運ばれたり入院措置が取られたりする場合もあります。
男女ともに起こり、30~50代に多い病気です。
具体的には、どのような症状があらわれるのでしょうか?
突発的な回転性のめまい
前庭神経炎は、突然起きる大きな回転性のめまいの発作が主な症状です。
周囲がぐるぐると回るようなめまいで、寝ていても起きていてもおさまらず、1~3日ほど断続的に続きます。
めまいとともに、おう吐したり吐き気を伴ったりすることも多くあります。
このような大きなめまいの発作は繰り返さず、一度きりでおさまることがほとんどです。
ただ回転性の強いめまいがおさまった後、ふらふらするようなめまいが続くことがあります。
頭が重く感じることも多く、まっすぐ歩けない、頭を動かすとめまいを感じるなどといった症状が、数週間から数ヶ月、場合によっては1年ほど続くこともあるので軽視できません。
難聴や耳鳴りは伴わない
前庭神経炎の特徴として、難聴や耳鳴りを伴わないことが挙げられます。
これは、前庭神経が耳の聞こえに直接関係する器官ではないためです。
多くのめまいは難聴や耳鳴りを伴うことがるため、前庭神経炎を診断するときに他の疾患と区別するポイントとなります。
眼振(がんしん)
自分の意志とは関係なく、視線が左右にすばやく動く眼振と呼ばれる症状が出ることが多いのも前庭神経炎の特徴です。
眼振が起こっていても自覚症状はないため、他の人が見ることで症状が判明します。
めまいを伴う疾患は他にも「良性発作性頭位めまい症」があります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
前庭神経炎の原因
前庭神経がウイルスに感染することや血行障害が原因と考えられていますが、現時点では確かなことはわかっていません。
前庭神経炎を発症する前に風邪をひいているケースが多いものの、必ずしもそうではない場合もあります。
前庭神経炎でめまいが起こるのはなぜ?
ウイルスに感染した前庭神経は、脳へ正しく平衡感覚に関する情報を伝えられなくなってしまいます。
右と左で異なる情報量が脳へ送られてしまい、脳は混乱を起こして体のバランスをとることが難しくなり、めまいが起こってしまうのです。
前庭神経炎の検査
前庭神経炎かもしれない場合、病院ではおもに以下のような検査がおこなわれます。
問診
どのようなめまいが、いつ、どのタイミングで起こったか、耳の聞こえはどうかなどを聞きます。
眼振検査
暗い場所でフレンツェル眼鏡と呼ばれる特殊な眼鏡をかけておこなう、目の動きを見る検査です。
フレンツェル眼鏡をかけると目の前が遮られたようになりますが、医師からはよく目の動きが観察できます。
聴力検査
耳鳴りや難聴、耳の閉塞感などがないか、機器を使って検査をおこないます。
カロリックテスト(温度刺激検査)
通常、耳に冷たい水を入れるとめまいが起こる仕組みが人間には備わっています。
しかし、内耳に異常がある場合にはめまいを感じないか、もしくは通常よりも軽いめまいを感じるようになっており、その原理を活かして、異常があるかどうか確認する検査です。
重心動揺検査
めまいの原因が耳からなのか他の原因なのかを調べる検査です。台の上に立つことで、ふらつきの方向や速度、動きの度合いをコンピューターで解析することで内耳からくるめまいであるのかべつの原因であるのかといったことを推測することが可能です。
前庭神経炎の治療方法
前庭神経炎の症状は、日ごとにおさまることがほとんどで、数ヶ月かかることもありますが完治し、再発もほとんどありません。
回転性めまいなど症状の強い時期は、薬を使って症状を抑えます。
その後のふらつきやめまいなどは、薬による治療とともに、リハビリや体操をおこなうことが有効とされています。
ここからは治療に使われる薬やリハビリについて詳しく説明しましょう。
薬を使った治療法
前庭神経炎では、症状に合わせて早期に薬を服用し治療することで、早く回復できると考えられています。
それでは、どういった薬が治療では使われるのでしょうか?
ステロイド薬
前庭神経の炎症をおさえて、めまいやふらつきの症状を改善するために、ステロイド薬が処方されます。
発症から3日以内にステロイドによる治療を始めることで、早く症状が回復するともいわれています。
ステロイド薬は副作用が心配、と思われる方も多いかもしれません。
しかし、ステロイド薬は、あらかじめ副作用も考えにいれた上で処方されます。
容量を守り適切に服用することで、ほとんどの場合問題はありません。
また、前庭神経炎ではステロイド薬の使用は短期間なので、治療後に影響が出ることもありません。
妊娠中でもステロイド薬を処方することは可能で、お腹の赤ちゃんに影響はないものの、授乳中の場合には母乳への移行が懸念されるため、服用中は授乳することはできません。
抗めまい薬
内耳や脳、前庭神経の血流を改善したり、神経からの異常信号を抑えたりすることで、めまいが起きるのを抑える抗めまい薬も処方されます。
抗不安薬
不安感を抑えるための抗不安薬を処方されることもあります。
吐き気を抑える薬
めまいにともなう吐き気を抑える薬も使われます。
飲み薬も使われますが、吐き気がひどい場合などは注射によって服用することもあります。
リハビリテーション
前庭神経炎では、強いめまいを感じる時期には安静が必要です。
しかし症状の強い急性期を過ぎたら、薬による治療に合わせて、リハビリや体操などが回復に有効です。
リハビリで脳の機能を高めることで、めまいの症状が少しずつ改善されていきます。
眼球運動や体幹運動、階段昇降など、まわりの安全に注意しておこないましょう。
医師の指導のもと、無理のない範囲で毎日おこなうことが大切です。
強いめまいを感じたら?
前兆なく襲ってくることの多いめまいですが、突然強いめまいを感じたらどうしたらいいのでしょうか?
家の中にいるなら、横になり休み、めまいがラクになる姿勢で休みます。
外出中ならまずは落ち着いて、ベンチなどで休みましょう。
壁などにもたれて、症状がおさまるのをしばらく待ちます。
電車やバスに乗っているなら椅子に座りましょう。
もし椅子に座れなかったりおさまらなかったりしたら、次の駅や停留所で一度降りて休みましょう。
運転中であれば、車をすみやかに路肩に寄せ、シートを倒してめまいがおさまるのを待ちます。
病院を受診する場合
しばらく休んでもめまいがよくならない場合には、病院を受診することをおすすめします。
その際、問診で症状を詳しく聞かれるので、あらかじめ以下のような内容をメモしておくとよいでしょう。
- いつ何をしているときにめまいが起こったか
- どんなめまいだったか(ぐるぐる回る、ふらふらする、など)
- めまいの他にどんな症状があるか
注意した方がよいめまいは?
めまいの大半は、前庭神経炎やメニエール病など耳鼻科関連の病気です。
しかし、めまいの中には注意すべき危険なものもあります。
めまいとともに以下のような症状があらわれたら、脳の病気など危険なめまいの可能性もあるので、すみやかに医療機関を受診しましょう。
- ろれつが回らない
- 手足に力が入りにくい
- ものが二重になって見える
- 麻痺やしびれをともなう
まとめ
前庭神経炎は、おう吐や吐き気をともなう突発的な回転性のめまいを感じる一方、難聴や耳鳴りは伴わないことが特徴の病気です。
また、耳から起こるめまいの多くが1日以内に収まるのに比べて前庭神経炎によるめまいは、持続時間が長いことも特徴の1つです。
- 前庭神経炎によるめまいは持続時間が長く数日にわたって続く
- 前庭神経炎によるめまいに難聴や耳鳴は伴わない
- 前庭神経炎は薬の服用とリハビリによる治療がおこなわれる
前庭神経炎を疑うような症状があらわれたら、すみやかに医療機関を受診するようにしましょう。