SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、マダニによって媒介される感染症です。
春から秋にかけて野山や草むらなどで活動する機会が増えることにより、感染の機会も増えます。
今回はSFTSについて、適切な予防法やその他の感染症とあわせて解説しましょう。
目次
マダニが媒介するSFTSとは?
SFTS(severe fever with thrombocytopenia syndrome)は、中国で2011年に報告され、日本でも2013年に初めて確認された感染症です。
日本と中国、韓国において発生が確認されています。
SFTSウイルスそのものは以前から存在していたと考えられますが、病原体が不明だったためこれまで診断できなかったものと考えられ、新しい病気というわけではありません。
それでは、SFTSとはいったいどのような感染症なのでしょうか?
SFTSの原因
SFTSウイルスを保有しているマダニに咬まれることにより感染します。
マダニ以外の吸血昆虫を介してSFTSに感染することはありません。
飛沫感染や空気感染はしませんが、血液や体液との接触によるヒトからヒトへの感染の報告もあります。
また、SFTSを発症している野生動物やイヌ、ネコなどの血液などに接触することで感染することも否定できないとされています。
SFTSの症状
SFTSの潜伏期間は6日~2週間ほどで、おもな初期症状は発熱や全身倦怠感、消化器症状(食欲低下、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛)です。
血液検査では、白血球や血小板の低下という特徴が見られます。
その他にも、腎機能や肝機能の障害や頭痛、筋肉痛、神経症状、リンパ節の腫れ、咳などの呼吸器症状、紫斑や下血などの出血症状が見られることあります。
また、日本でのSFTSによる致命率は約20%です。
SFTSの国内・福岡県内での発生状況
SFTSは、国内では西日本を中心として、5~8月ごろに多く発症しています。
2022年7月31日時点で、国内ではこれまでに763例が確認され、うち92例で死亡しています。
また、患者の年齢層は5歳~90歳代ですが、全患者の90%が60歳以上です
福岡県内でも、2015年7月にSFTSの患者が初めて報告されて以来、2021年7月31日時点で26例が報告されています。
SFTSの治療法
現時点では、SFTSに有効な治療薬はなく対症療法が中心となっています。
受診時には、いつごろ、どこの野山へ行ったなど発症前の行動を医師に伝えるようにしましょう。
SFTSを予防するには?
SFTSには、特効薬やワクチンが現時点ではないため、予防することが非常に重要です。
それでは、SFTSを予防するためには、どのような点に気をつけたらよいのでしょうか?
マダニを知る
SFTSは、マダニが媒介する感染症です。そのため、マダニに咬まれないようにすることがもっとも重要です。
マダニとは、家庭内に生息するダニや植物の害虫であるハダニとは種類が異なる、固い外皮に覆われた3~4mmほどの比較的大型のダニです。
マダニは森林や野山、草地などだけでなく、市街地にも生息しています。
日本には、47種類のマダニが存在し、そのうちフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニがヒトへの感染に関与しています。
しかし、すべてのマダニがSFTSウイルスを保持しているわけではありません。
マダニのウイルスの保有率は、季節や地域によって異なりマダニに咬まれたからといって必ず感染症にかかるわけではないのです。
また、マダニは人間のほかにも、イタチやシカ、タヌキ、キツネ、ネコ、イヌなどの動物に対しても吸血します。
脱皮して成長するために吸血し、一度取り付くと数日~10日ほど吸血することも多く、その後脱皮してメスは産卵行動に入ります。
マダニの行動を知る
マダニは、植物の葉の裏など地上1mほどの高さで待ち伏せし、身体に飛びつきます。
まず、皮膚に口下片というトゲのような部分を差し込んでセメントのような物質を分泌し、しっかり皮膚に固着します。
その後、唾液を分泌し、吸血します。唾液には麻酔液に近い作用があるため、吸着されても痛くもかゆくもないことから、なかなか気づきにくいのです。
マダニから身を守る
それでは、マダニから身を守るためにはどのようなことに注意すればよいのでしょうか?
マダニから身を守る服装
マダニに咬まれないためには、まず服装に気を配ることが大切です。
農作業やレジャー、庭仕事など野外での活動の際には以下のような点に注意しましょう。
- 肌の露出を避け、長袖、長ズボンを着用する
- ズボンやシャツの裾、袖口を入れ込む
- 長靴、帽子、手袋を着用する
- 首にはタオルを巻く、ハイネックを着るなどする
- 明るい色の服を着用し、マダニを目視で確認しやすくする
外出時に着ていた上着や作業着などは、家の中に持ち込まないようにしましょう。
また、屋外での活動後は、入浴やシャワーなどでマダニに刺されていないか確認しましょう。
虫除けスプレーを活用する
ディート(DEET)やイカリジンと呼ばれる成分を含む虫除けスプレーには、マダニに対する一定の効果があるとされているので、活用することをおすすめします。
しかし、ディートには、独特の匂いやベタつきなどがあることや、6ヶ月未満の乳児に使用できない、繊維や樹脂を傷める場合もあるなどデメリットもあります。
一方イカリジンには、それらのデメリットがなくディートと同等の効果があり、使いやすいのが特徴です。
とはいえ、いずれも発汗して流れてしまうことや成分の濃度によって効果の持続時間なども変わることから、あくまで補助的な役割として活用することが大切です。
動物とのふれあいに注意する
ペットに口移しでエサを与える、同じ布団で寝るなど、過剰なふれあいは避けるようにしましょう。
また、動物を触ったら必ず手を洗うこと、野生動物との接触は避けるなどを注意することが、SFTS以外の感染症を防ぐ上でも大切です。
ペットのマダニを適切に駆除する
ペットについているマダニに触れただけではSFTSに感染しませんが、ウイルス保有のマダニに咬まれてしまうと感染の恐れがあります。
ペットの散歩のあとは、体表にマダニがついていないかチェックしてあげましょう。
目の細かいブラシを使ってブラッシングしてあげるのが効果的です。
マダニが食い込んでいる場合には、無理に取ろうとせず、獣医師を受診する方がよいでしょう。
マダニに咬まれたら?
マダニに咬まれて24時間以内、マダニの大きさが3mm程度であれば、自分で除去できる可能性もあります。
なるべく皮膚に近いところから、ピンセットでマダニを挟んで垂直に引き抜きましょう。
できないようであれば、無理に引き抜かず皮膚科や外科を受診するようにしてください。
無理に引っ張って除去しようとすると、マダニの一部が皮膚に残ってしまい、炎症や病気を発症することもあります。
しかし、マダニをうまく取り除けた場合でも、刺し口にマダニの体の一部が残ってしまうことがあります。
その場合にも、できるだけ早く皮膚科や外科を受診するようにしましょう。
また、マダニに咬まれても症状があらわれなければ受診の必要はありません。
ただし、咬まれてから数週間は、体調の変化に注意するようにしましょう。
SFTSの他にもある、マダニが媒介する感染症
マダニが媒介する感染症は、SFTSの他にも多くあります。
国内でかかる可能性のある代表的な感染症をご紹介しましょう。
日本紅斑熱、つつが虫病
潜伏期間は、日本紅斑熱では2~8日ほど、つつが虫病では10~14日ほどで、39~40℃の高熱や頭痛、悪寒などの症状があらわれます。
高熱とともに、米粒大~あずき大ほどの赤い紅斑が全身に広がり、刺し口は赤く腫れ、中心部に黒いかさぶたのようなものができます。
早期診断と適切な治療で治りますが、治療が遅れれば重症化、死亡することもあります。
ライム病
潜伏期間は1~3週間ほどで、刺された部分を中心とした赤い発疹や倦怠感、頭痛、関節痛、筋肉痛などのインフルエンザのような症状があらわれます。
悪化すると脳や心臓への障害や、後遺症が残る場合や死亡例もあるため、早めの受診が大切です。
まとめ
マダニは、SFTSの他にもさまざまな感染症を媒介するため、まずは咬まれないように予防することが大切です。
野外で活動する場合には、服装に注意し、肌の露出を避けるようにしましょう。
咬まれた場合も無理に取り除こうとせず、医療機関へ速やかに受診するのがおすすめです。
- SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、マダニによって媒介される感染症
- SFTSに有効な治療薬はなく対症療法が中心
- SFTSを予防するにはマダニに刺されないような対策をする
マダニに刺された後、発熱や嘔吐などが見られる場合にはすみやかに医師に相談するようにしてください。