風邪をひくと「扁桃が腫れている」と病院で診断されることは珍しくありませんが、熱もなく元気な場合にも腫れていることがあります。
それは扁桃肥大と呼ばれる、通常よりも扁桃が大きくなってしまう状態のことです。
扁桃肥大は、さまざまな症状を引き起こす恐れもあり、注意が必要です。
今回は、扁桃肥大の原因や症状、治療法について解説します。
目次
扁桃とは?
口を大きく開けて喉を見たときに、のどちんこ(口蓋垂)の両側にあるのが扁桃です。
正しくは口蓋扁桃と呼ばれ、喉の一番奥にある「咽頭扁桃(アデノイド)」や舌の付け根にある「舌根扁桃」など扁桃にはいくつか種類があります。
これらは、咽頭の中で発達したリンパ組織のひとつで、外から病原体やウィルスに対処する免疫の役割を担っています。
一般的に扁桃とは口蓋扁桃のことを指し、扁桃肥大とは口蓋扁桃がとくに大きくなってしまうことを指します。
ちなみに、扁桃とはアーモンドのこと。口蓋扁桃がアーモンドの形に似ているため名付けられました。
子どもが成長していく過程で、感染症から身を守るため、1歳頃から扁桃は大きくなります。
そして、6~7歳で大きさや働きのピークを迎え、中学生くらいになると小さくなっていく場合がほとんどです。
また、子どもの扁桃肥大の場合、同時に咽頭扁桃(アデノイド)も肥大している場合も珍しくありません。
扁桃肥大の原因
扁桃肥大は、生まれつきの体質によることが多く、遺伝的な理由が原因と考えられています。
しかし、扁桃炎や扁桃周囲炎などの炎症を繰り返すことで肥大化してしまう場合もあるので注意が必要です。
また、扁桃肥大だからといって必ずしも炎症を起こしやすいとは限らず、ほとんど炎症を起こさない場合もあります。
扁桃肥大による症状
扁桃肥大では、喉にある扁桃が腫れることで、気道(空気の通り道)が狭くなってしまいます。
肥大の程度は、以下のように3段階に分けられます。
- 口蓋扁桃がわずかに突き出る
- 口蓋扁桃が強く突き出る
- 口蓋扁桃がのどちんこの真下にまで達する
ただし、幼児では2段階程度までの肥大は生理的な状態で、日常生活に支障がなければ基本的には問題ありません。
しかし、扁桃肥大により普段の生活の中で次のようなトラブルが引き起こされる場合もあります。
1.眠りの質が低下する
扁桃肥大になると眠りが浅くなるので、朝起きられない、居眠り、集中力の欠如、イライラなど学習や仕事にも悪影響を及ぼします。
なぜなら、扁桃肥大により気道が狭くなるため、いびきや睡眠時無呼吸症候群を引き起こしてしまうからです。
睡眠中には成長ホルモンが多く分泌されるので、眠りの質が低下すると子どもの成長を阻害してしまう原因にもなりかねません。
2.食べ物が飲み込みにくくなる
扁桃肥大になると、食事に時間がかかったり、食が細かったりするなど食事にまつわるトラブルも少なくありません。
大きな扁桃が邪魔になり、食べ物が飲み込みにくくなるからです。
食が進まないことで、子どもの体重や身長の成長が鈍くなる場合もあります。
扁桃肥大の検査
扁桃肥大の検査は、睡眠状況や日中眠気を感じるかどうかなどの問診や、気道の閉塞状況などを調べます。
扁桃肥大が重度の場合、専用の装置を使って呼吸の状態やいびき、血中の酸素濃度などの睡眠状態を自宅で検査することもあります。
睡眠時の様子をスマホなどで前もって動画撮影しておき、診察時に見せると参考になる場合もあるので医師に相談してみるとよいでしょう。
また扁桃炎が扁桃肥大を引き起こしている場合もあるので、原因となる細菌を調べる検査をすることもあります。
扁桃肥大は防げる?
子どもの成長にともない大きくなる扁桃肥大は、生理的なものであり防ぐことはできません。
しかし、扁桃の炎症を繰り返すことで起こる病的な扁桃肥大は、できるだけ風邪にかかりにくくすることで予防することができます。
とくに子どもは風邪をひきやすいので、バランスのよい食事やうがい手洗い、マスクを着用させるなど気をつけることが必要です。
扁桃肥大の治療
扁桃肥大の治療は、日常生活に影響がなければ特に必要ありません。
また、感染症が原因で扁桃肥大を引き起こしているのであれば、抗生剤などの薬を使い炎症を鎮めて治療します。
しかし、生理的な扁桃肥大が原因で睡眠や食事のトラブルを引き起こしたり、頻繁に扁桃が炎症を起こしたりするようであれば、摘出手術による治療を検討した方がよいかもしれません。
扁桃肥大の手術
以前は、扁桃が大きいと診断されるだけで摘出手術をおこなっていました。
しかし、現在では、日常生活への支障が大きい場合に手術を検討しています。
扁桃は子どもの頃には免疫の役割を持ちますが、他にも扁桃組織が存在するため口蓋扁桃を切除しても問題ないと考えられています。
また子どもの場合には、多少扁桃が大きくても成長とともに扁桃が小さくなるのですぐに手術するのではなく、しばらく様子を見ることも少なくありません。
扁桃摘出の手術を検討するのは、以下のような場合です。
- 繰り返し扁桃が腫れて発熱する
- 扁桃に細菌が棲みつき、発熱のたびに血尿が見られ腎炎が心配される
- 呼吸が苦しく、睡眠時に無呼吸が見られる
- 飲み込みや食事への影響が疑われる
手術方法
扁桃肥大の手術は、全身麻酔で1時間~1時間半ほどかかり、入院期間は1週間~10日前後が一般的です。
正しくは「口蓋扁桃摘出手術」と呼ばれ、開口器と呼ばれる器具を口にかけ、扁桃を丸ごと摘出します。
口の中から手術を行うため、顔や首に傷あとが残る心配はありません。
子どもの場合には、同時に咽頭扁桃(アデノイド)の肥大を引き起こしていることが多いため、あわせて摘出をおこなうこともあります。
手術後1ヶ月ほどで、咽頭部の傷あとは粘膜に覆われます。
手術を受けるデメリットはある?
扁桃の摘出手術を受けることで、メリットと同時にデメリットも発生します。
メリットとデメリットを天秤にかけ、手術を受けるかどうか検討しましょう。
術後の痛みや喉の違和感、味覚障害など
術後に麻酔がさめると強い痛みが襲ってくることがあります。
痛みの程度や続く期間はさまざまですが、長い場合には1週間程度続くこともあります。
また、手術中に舌を押さえつけておくことで味覚障害がや喉の違和感が残る場合もあるでしょう。
しかしほとんどの場合、症状は一定期間を過ぎるとおさまります。
また扁桃腺が元々大きい場合、声の感じが変わることがあります。
術後出血のリスク
手術そのものは大がかりなものではありませんが、手術後の出血に対するリスクはあります。
そのため、手術後1週間程度は入院しておく必要があります。
まとめ
子どもの扁桃肥大は、成長にともない徐々に小さくなる場合が多いので、必ず手術しなければならないというわけではありません。
しかし、睡眠中のいびきや無呼吸、食事がしにくいなどの日常生活にトラブルがある場合には医師に相談することをおすすめします。
- 扁桃肥大は生まれつきの体質または扁桃腺の炎症による肥大が原因
- 睡眠の質が低下したり、食べ物が飲み込みにくくなったりするなど日常生活に支障が出たら手術を検討
- 摘出手術にはデメリットもあるので確認しておく
また、大人になっても扁桃が大きいままで、慢性的に扁桃炎にかかるといった場合には、扁桃摘出を検討してみてもよいかもしれません。
いずれにしても手術を受ける場合には、メリットとデメリットを必ず確認し、医師の説明をきちんと受けるようにしましょう。
