秋から冬にかけて流行することの多いRSウイルス感染症。
比較的軽い症状で治るケースが多いものの、乳児期の赤ちゃんや抵抗力の弱い高齢者が感染すると重篤化することもあるため注意が必要です。
今回はRSウイルスをテーマに原因や症状、合併症や予防のポイントなどについて詳しく解説しましょう。
目次
RSウイルスとは?
RSウイルスは世界中に分布しており、めずらしい病気ではありません。
生後1歳までに約半数が、2歳までにはほぼ100%が少なくとも一度は感染するといわれています。
感染しても免疫はつかないため、大人になっても何度もかかる病気です。
潜伏期間は3~5日ほどで、発症から1週間~10日は咳やくしゃみによる飛沫感染や、ドアノブやおもちゃなどを介する接触感染によってうつります。
感染力が強いため、幼稚園や保育園などでの集団感染や家庭内感染を引き起こすことも珍しくありません。
最近は流行の開始が8月末に移行しており、特に西日本では通年性に認められるようになっています。
RSウイルスのおもな症状
RSウイルスでは38~39℃の発熱や鼻水、咳など風邪のような症状がおもにみられますが、発熱しないなど軽症の場合も少なくありません。
不顕性感染や潜伏感染が基本的にないことから、RSウイルスが検出された場合、RSウイルス感染症と判断してよいことになります。
また、咳がひどくなる、ゼーゼーといった喘鳴が出る、呼吸困難になるなど重症化することもあるため注意が必要です。
このような症状がみられたら、すみやかに専門医を受診しましょう。
生後6ヶ月未満の赤ちゃんは重篤化しやすいので注意を!
とくに生後6ヶ月未満の赤ちゃんは重篤化しやすく、生まれて初めて感染したうちの約3割は悪化するといわれています。
呼吸困難に陥り、入院となるケースも多くみられます。
通常、初期の乳児期は母親からもらった免疫で病気を防ぐことができるのですが、RSウイルスに関しては防ぐことができません。
さらに低出生体重児や心臓や肺に基礎疾患がある場合、神経や筋肉に疾患がある場合、生まれつき免疫不全の場合などは重症化の高いリスクがあるため、注意が必要です。
また生後1ヶ月未満で感染した場合、症状が定まらず診断が困難なため、無呼吸や突然死につながることも。
SIDS(乳幼児突然死症候群)の原因のひとつとも考えられています。
大人が感染すると軽症のことが多いため、RSウイルスと気づかないまま子どもや赤ちゃんに感染させてしまうことも多く注意が必要です。
また、大人が感染すると全身症状があまり認められない反面、湿性の咳嗽などの症状が遷延化する傾向にあります。
また、罹患率はインフルエンザの2倍とも言われており、特に心疾患や呼吸器疾患をもつような高齢者では注意が必要と言えます。
RSウイルスにかかると引き起こしやすい合併症
RSウイルスにかかると、次のようなさまざまな合併症を引き起こすこともあります。
- 細気管支炎
- 肺炎
- 中耳炎
- 無呼吸発作
- 急性脳症
細気管支炎
気管支から枝分かれしている細気管支がウイルスや細菌に感染、炎症を起こして発症します。
細気管支の内側が炎症で狭くなるため呼吸が苦しくなったり、呼吸困難やチアノーゼを引き起こしたりするケースもあります。
乳幼児の細気管支炎の約50%~90%がRSウイルスによると言われています。
激しい咳やはやい呼吸、胸やお腹がぺこぺこと凹む陥没呼吸や咳き込み嘔吐といった重い症状があらわれることもあり要注意です。
症状が重症化した場合、酸素化や人工呼吸の適応となることもあります。
肺炎
口や鼻から入り込んだウイルスや細菌がのどを通過し、肺にある肺胞に感染し、炎症を起こして発症します。
肺胞でウイルスや細菌が増殖すると酸素と二酸化炭素のガス交換がうまくできなくなり、呼吸困難などを引き起こす場合があります。
発熱が続く、咳や痰といった症状があらわれ、脱水症状やぐったりするといった全身症状がみられることも。
細気管支炎と同じく、乳児の肺炎の約50%はRSウイルスが原因だといわれています。
中耳炎
RSウイルスに限らず、子どもが感染症にかかると引き起こしやすいのが中耳炎です。
鼻水が多く出ることで耳へ影響を及ぼし、耳の痛みや聞こえにくさ、詰まった感じなどの症状があらわれます。
赤ちゃんが耳を気にしてしきりに触ったり、不機嫌だったりする場合には中耳炎を併発しているかもしれません。
放っておくと難聴の原因にもなり、言葉の発達へ影響を与えるため、気になる症状がみられればできるだけ早く耳鼻咽喉科を受診させましょう。
無呼吸発作
無呼吸発作とはその名の通り呼吸が止まってしまい、チアノーゼや突然死を引き起こすことのある危険な病気です。
ウイルス感染により呼吸中枢が影響を受けていたり、気道に痰などの分泌物が溜まり呼吸がしにくくなっていたりと原因はさまざまです。
生後3ヶ月未満で起こりやすく、小さな赤ちゃんが感染した場合には細心の注意が必要となります。
急性脳症
RSウイルスに感染することで、脳に急激なむくみが生じる病気です。
発熱や意識障害、けいれんなどを引き起こし、後遺症が残ったり命に関わったりするケースも少なくありません。
とくに乳幼児に発症する場合が多く、的確で迅速な治療が必要となります。
RSウイルスの診断方法
RSウイルスの診断方法はインフルエンザと同じように、鼻水を採取しウイルス抗体を検出する迅速診断法です。
約10~20分ほどで結果が判別できますが、すべての人が保険適用となるわけではありません。
基本的には1歳未満の乳児や入院患者、重症化リスクの高い患者のみ適用されます。
RSウイルスの治療方法
RSウイルスには特効薬はなく、対症療法が基本となります。
ただし赤ちゃんの場合には、重症化に備えて入院での治療となるケースも少なくありません。
症状に応じて点滴や酸素投与、人工呼吸器などの対応をおこないます。
しかし基本的にはゆっくりと休息と栄養、水分をとることで、回復します。
とくに乳児の場合にはおっぱいやミルクなどでこまめに水分を与えてあげましょう。
また赤ちゃんや子どもは鼻水をこまめに吸ってあげることも大切です。
RSウイルスにワクチンはない?
RSウイルスはインフルエンザや水ぼうそうのように、感染や重症化を防ぐワクチンは基本的にありません。
しかし重症化リスクの高い子ども(低出生体重児や心臓・肺に基礎疾患、免疫不全、ダウン症など)のみ、パリビズマブという注射の投与があります。
RSウイルスの流行初期に投与をはじめ、1ヶ月ごとにパリビズマブの筋肉注射を受けることで重篤な症状を防ぐ効果があるとされています。
RSウイルスの予防方法
つづいてRSウイルスの感染を予防するポイントについて解説します。
- 手洗いうがい
- マスクの着用
- ドアノブやおもちゃのこまめな消毒
小さな乳幼児がいる家庭では感染や重症化を防ぐためにも、普段から心がけるようにしましょう。
手洗いうがい
普通の風邪と同じように、手洗いうがいでウイルスを洗い流して予防しましょう。
RSウイルスはとくに接触感染でうつりやすいため、こまめな手洗いが大切です。
うがいの方法は次の記事が参考になりますのでご覧ください。
マスクの着用
咳や鼻水といった軽い風邪症状がみられる場合や、秋から冬にかけての流行期にはマスクを着用するようにしましょう。
大人や児童が感染しても軽い風邪症状ですむことが多いため、RSウイルスに感染していることを気づかないまま、乳幼児へうつしてしまうケースが多くみられます。
また咳や鼻水などの症状がある場合には、小さな乳幼児との接触をできるだけ避けるようにしたいですね。
ドアノブやおもちゃのこまめな消毒
RSウイルスには次亜塩素酸ナトリウム(0.02%)や消毒用アルコールといった消毒剤が有効です。
ドアノブや手すり、おもちゃなど子どものよく触る場所をこまめに消毒するようにしましょう。
まとめ
RSウイルスは意外と知られていませんが、小さな乳幼児が感染した場合、重篤化する危険性が高い病気です。
とくに赤ちゃんや小さな子どもがいる家庭では感染を防ぐために、手洗いうがいやマスクの着用、こまめな消毒などを心がけることも重要です。
- RSウイルスは2歳までにほぼ一度は感染する
- 比較的症状は軽いが乳児期の赤ちゃんが感染すると重症化しやすい
- RSウイルスには特効薬がなく対症療法が基本
38.0℃以上の高熱やゼーゼー、ヒューヒューといった呼吸、咳がひどくて眠れないといった症状があらわれた場合にはできるだけ早く医療機関を受診しましょう。