首(頸部)のリンパ節が痛い、腫れている、しこりができているなどの症状があらわれると気になりますよね。
このような症状を医学的には「頸部リンパ節腫脹(しゅちょう)」といい、さまざまな原因が考えられます。
腫れや痛み、発熱があってもあまり心配はいらない場合がほとんどですが、まれに重篤な疾患が見つかるケースもあるため注意が必要です。
今回は頸部リンパ節の腫れや痛みについて詳しく解説しましょう。
目次
頸部リンパ節が腫れるおもな原因は「リンパ節炎」
頸部(首)には左右合わせて全部で200個ほどのリンパ節があり、私たちの体を感染から守っています。
リンパ節は豆のような形をしており、通常のサイズは直径1cm以下ですが、ウイルスや細菌への感染が原因で炎症を引き起こし腫れることがあり、それらをまとめて「リンパ節炎」と呼んでいます。
風邪や扁桃炎などの症状が先行してみられ、しばらくしてから頸部リンパ節の腫れや痛みがあらわれる場合がほとんどです。
また、虫歯を原因として頸部リンパ節が腫れることも。
それらの多くは「急性リンパ節炎」で、風邪や扁桃炎などもともとの症状が落ち着くことで、リンパ節の症状も落ち着く場合がほとんどです。
しかし、急性リンパ節炎がきちんと治らないまま長引き、「慢性リンパ節炎」となるケースもあり、注意が必要です。
慢性リンパ節炎ではリンパ節が周辺組織と癒着したり、化膿したりする場合もよくあります。
頚部リンパ節が腫れる病気
頸部リンパ節が腫れる病気にはリンパ節炎だけでなく、他にもさまざまな病気が考えられます。反応性リンパ節腫脹
細菌やウイルスなどなんらかの感染症に伴うものや、その他の全身性疾患に反応してリンパ節が腫れる病気です。
感染性のものとしては咽頭炎やむし歯などに伴って生じることが多いです。
炎症が強いと発熱や圧痛を伴います。抗生物質を用いて治療します。ただ、実際には気になってリンパ節を触っているうちに腫れるようなことも少なくはないと思われます。
溶血性連鎖球菌感染症
「溶血性連鎖球菌」という細菌がのどに感染し、子どもに多くみられる病気です。
発熱、のどの痛みがおもな症状で、加えて赤い発疹や苺状舌(舌が苺のようにブツブツになる)、頭痛や腹痛、頸部リンパ節の腫れがみられることがあります。
きちんと抗菌薬を服用すれば快方に向かい、周囲への感染のおそれもなくなりますが、合併症を引き起こしたり、再発したりする場合もあるため、比較的長めに抗生物質を内服する必要があります。
またうつる可能性があるため、熱がある間は自宅待機するなどの注意が必要です。
伝染性単核球症
ヘルペスウイルスの一種であるEBウイルスなどに初感染することが原因で引き起こされる病気です。
発熱や全身のリンパ節の腫れや肥大(とくに頸部リンパ節の症状がひどい場合が多い)、倦怠感や疲労感などがみられます。
ウイルスに対する薬がないため、治療は対症療法となり、症状は長期化する場合が多く、倦怠感や疲労感は数週間から数カ月続くことも。
乳幼児期の感染では症状が出ないことや軽い場合が多いのですが、学童期以降の初感染では症状が強くあらわれます。
感染すると肝臓や脾臓が肥大化しやすくなり、場合によっては破裂する危険性もあるため注意が必要です。
また、重症化するとさまざまな合併症を引き起こすこともあります。
ネコひっかき病
「グラム陰性細菌」に感染したネコに引っかかれたり、噛み付かれたりすることで感染する病気です。
引っかかれ跡や噛みつき跡が赤く盛り上がってかさぶたとなり、発熱や頭痛などとともに頸部や脇の下など、付近のリンパ節が腫れることがあります。
また、腫れたリンパ節は痛みをともない、膿が出る場合も。
元からある傷をネコに舐められることでも感染する場合があるため、とくにペットとして飼っている方は注意しましょう。
川崎病
4歳以下の赤ちゃんや子どもにみられ、全身の血管に炎症があらわれる病気です。
以下の6つの症状のうち、5つ以上の症状があらわれると川崎病と診断されます。
- 高熱や目の充血
- 真っ赤な唇と苺状舌(舌が苺のようにブツブツになる)
- 発赤疹
- 手足の腫れ
- 頸部リンパ節の腫れ
- BCG接種跡の赤い腫れ
原因は不明で、日本人など東アジアの人々に多くみられるのも特徴です。
川崎病では冠動脈にコブ(動脈瘤)ができる場合があり、将来的に血管がつまり、狭心症や心筋梗塞を引き起こすおそれが高くなります。
そのため、できるだけ早く熱を下げ、血管の炎症を抑える治療を施すことが重要です。
亜急性壊死性リンパ節炎
はじめは咳や鼻水、扁桃肥大、発熱など風邪のような症状があらわれ、前後するように頸部や脇の下のリンパ節の腫れがみられる病気です。
1ヵ月近く熱が下がらない場合も。
1個のリンパ節が腫れ、周辺の組織との癒着はみられないのが特徴です。
男性よりも女性に多く、とくに20~30代に発病した患者さんが全体の約85%を占めています。
治療は抗生物質が無効であるため、ステロイド剤などを使った対症療法となり、1~3ヵ月ほどでだいたい治りますが、まれに再発することもあります。
また、一過性の免疫不全状態となる場合も多く、細菌感染など二次感染の予防に努めることが重要です。
キャッスルマン病
リンパ増殖性疾患の一つで、リンパ節腫大、微熱、倦怠感などを認めます。診断としては、採血、病理診断を必要とします。
限局型と全身型があり、限局型は外科的切除にて予後良好ですが、全身型はステロイドなどの薬物治療を行います。
全身型は特発性多中心性キャッスルマン病として難病指定されています。
サルコイドーシス
原因不明の発熱を伴う、慢性肉芽種性病変です。
全身に病変を認めますが、特に肺門部のリンパ節腫大を認め、呼吸器病変を認めることが多いですが、頚部のリンパ節腫大を認める場合もある疾患です。
確定診断のためにはリンパ節生検を必要とします。
予後は比較的良好ですが、多臓器に病変を認める場合にはステロイド等の治療を行います。
結核性リンパ節炎
結核菌に感染することで、頸部リンパ節に炎症があらわれる病気です。
古くは「るいれき」と呼ばれ、肺以外に結核菌が巣食う、いわゆる「肺外結核」のひとつ。
中でも結核性リンパ節炎はもっとも多くみられる肺外結核のひとつで、男性よりも女性に多くみられる病気です。
リンパ節部分が2~3cmほどに赤く腫れ、そのままにしておくと周囲の組織と癒着し、痛みをともなうようになります。
さらに進行すると硬くなったり、膿瘍化(うみがたまる)したりすることも。
治療は肺結核と同じような方法となり、膿瘍化した場合には外科手術での対応が必要です。
悪性のものとしては以下のようなものがあります
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫とは、白血球の一種であるリンパ球ががん化した病気です。
頸部だけでなく、脇の下や鼠径部といったリンパ節の多い場所にしこりがあらわれ、多くの場合痛みをともないません。
病状が進むと、数週間から数カ月かけてしこりや腫れが全身に広がります。
発熱や体重の減少、ひどい寝汗などの全身的な症状をともなうことも多く、そのほかにもかゆみや発疹、悪化すると気道閉塞や血流障害などを引き起こし、緊急に手術が必要となるケースもあります。
がんのリンパ節転移
がんが最初に発生した場所(原発巣)からリンパ管に入り込み、リンパ液の集まるリンパ節へ転移することがあります。
リンパ節は免疫機能をつかさどっているため、一部のがんは異物としてせき止められるのですが、そのまま増殖し、さらにリンパ管を辿って別のリンパ節へと進行してしまうことも少なくありません。
頸部リンパ節が腫れる場合、>口腔がんや咽頭がん、甲状腺がんなど、頭頸部(頭や首)のがんであるケースが非常に多くみられます
頸部リンパ節にこんな症状がある場合には要注意
頸部リンパ節が腫れるとともに、以下のような症状がみられる場合には注意が必要です。
- 腫れが2.5cm以上ある
- 膿が出る
- 硬い、しこりのようになっている
- 激しく痛む
- 痛みが2~3週間続いている
- 徐々に腫れが大きくなっている
このような症状があらわれている場合、まれに重篤な病気のケースも考えられます。
頸部リンパ節の腫れは耳鼻咽喉科の受診を
頸部リンパ節の腫れは、耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。
耳鼻咽喉科の医師は鼻炎や扁桃炎などの鼻や喉の病気もちろん、頸部にあるリンパ節の疾患も診る専門医。
まれではあるものの、頸部リンパ節の腫れは重篤な疾患の症状のおそれもあるため、きちんと専門の医師に診てもらうことが早期回復への近道です。
まとめ
頸部などにあるリンパ節は私たちの体を感染から守り、免疫をつかさどる大切な器官です。
それゆえにリンパ節が腫れたり痛みがあったりすると不安になりますよね。
多くの場合、風邪などにともなった腫れや痛みで、適切に治療することで、きちんと治ります。
ただし、まれに重篤な疾患が隠れているケースもあるので注意が必要です。
- 頸部などのリンパ節が腫れるのは炎症や腫瘍が原因
- 多くの場合は細菌・ウイルス感染にともなった腫れ
- 腫れがひどい・膿が出るなどの場合には早めに受診を
- 頸部リンパ節の腫れは耳鼻咽喉科が専門領域
頸部リンパ節に気になる症状がみられる場合には、専門である耳鼻咽喉科を受診し、できるだけ早く治療したいですね。
