近年、世間でも大きく認知されるようになってきた耳管開放症。
耳管開放症は非常に不快な症状があらわれるものの、周囲から分かりにくいことからそのつらさが理解されにくい病気です。
検査をしても聴力に異常がみられず、診断しにくい病気であることから、本人も耳管開放症だと気づかず苦しんでいるケースも少なくありません。
今回は耳管開放症について症状や原因、治療法などを解説します。
目次
耳管開放症とは?
耳管開放症とは、耳と鼻の奥をつなぐ耳管が開きっぱなしになる病気です。
30~40代の女性に多くみられ、潜在的な患者さんも含めると全国で600万人ほどいると考えられています。
そもそも耳管は、耳と鼻をつなぐ管のことで、普段は閉じています。
あくびをしたり、唾液を飲み込んだりしたときに瞬時に開き、外の大気圧と耳の中の空気圧を調整するなどの役割を果たしているのです。
また鼻から細菌が耳に入り込むのを防いだり、自分の声が耳に響かないようにしたりといった働きもあります。
耳管は状況に応じて、私たちの意思とは関係なく開閉している部位です。
耳管開放症になると耳管の開閉機能が正常に働かなくなり、さまざまな症状があらわれます。
耳管開放症の症状
耳管開放症になると耳管が常に開いているため、鼻から伝わる自分自身の声や呼吸音が直に耳に伝わってしまいます。
これだけでも非常に不快な症状ですが、耳管が開きっぱなしであることでその他にもさまざまな症状があらわれます。
- 耳が詰まった感じがする(耳閉感)耳を塞がれたように感じ、飛行機に乗ったときのように耳抜きをしてもよくなりません。
- 自分の声が響く(自声強聴)自分の声が耳管を通って直接耳に響き、耳元で話しかけられているように感じます。
- 自分が息をする音が聞こえる(自己呼吸音聴取)自分の鼻息が耳に直接流れ込むため、呼吸をするたびに鼓膜が震えて、息の音が聞こえます。
その他にも、難聴やめまい、頭痛の症状があらわれることもあります。
耳管開放症を放置するリスク
耳管開放症の症状には個人差があり、耳の閉塞感や自分の声が響くことにあまり不快を感じないこともあります。
しかしながら、耳管開放症は耳と鼻の奥をつなぐ管が開きっぱなしになるため、鼻の奥にある雑菌が耳に入り込むことも少なくありません。
その結果、次のような耳の病気になるリスクがあります。
- 癒着性中耳炎
- 真珠種性中耳炎
これらは治りにくい耳の病気なので、耳管開放症から中耳炎を進行させないよう早めの治療をしましょう。
その他、自分の呼吸音や声が響くことが大きなストレスとなり、精神的な疾患につながるケースもあります。
耳管開放症の原因
耳管開放症の主な原因の1つに過度なダイエットがあります。
耳管の周りには脂肪でできた組織があり、この組織が耳管を閉める役割を果たしているためです。
急激に体重が減少すると耳管の周りの脂肪組織も小さくなり、耳管が閉じにくくなるのではないかと考えられています。
また耳管開放症は夏場に患者が多くなる傾向があります。
それは脱水により体内の水分量が減少したことで耳管の周りの組織が小さくなり、耳管が閉じにくくなるためです。
脱水による耳管開放症の場合、水分補給をこまめにすることで、症状を緩和させることができるでしょう。
その他にも次のような原因が考えられます。
- ストレス
- 中耳炎
- 体調不良
- 顎関節症
- 三叉神経障害
上記で挙げたように原因は多岐にわたります。
20~30代の女性に多い理由
耳管開放症は30~40代の女性に多い耳鼻咽喉科疾患です。
過度なダイエットをしがちなのもありますが、もう1つの理由として自律神経の乱れが挙げられます。
耳管開放症は、ストレスが溜まっているときや妊娠中やピル服用時に症状があらわれやすいためです。
いずれも自律神経が乱れやすい状態であり、自律神経が乱れると交感神経が優位になり耳管周辺の血管が収縮し、血流が悪くなります。
その結果、耳管組織が収縮し耳管が閉じにくくなることから、耳管開放症となるのです。
耳管開放症の診断のポイント
耳管開放症は症状だけで判断するのは難しい耳鼻咽喉科疾患です。
自己呼吸音聴取の症状があれば耳管開放症と診断できるのですが、必ずしもすべての患者さんにこの症状があらわれるとは限りません。
そのため、鼓膜が呼吸と同じリズムで動くかどうかをみる検査によって、管が開いた状態かどうかを判断します。
内視鏡検査やMRIなどの画像検査にて診断がつく場合もあります。
大学病院などでは耳管機能検査をおこない診断することも可能です。
受診の際に耳管開放症の症状があらわれるとは限らないため、どのようなときに症状があらわれるのかなど、医師に詳しく説明できるようにしておきましょう。
体位によって症状が変化する
耳管開放症は寝転がったり前かがみになったりすると、症状が落ち着くという特徴があります。
横に一時的に耳管が狭くなるからです。
そのため、体位により症状が変化するかどうかも診断のポイントの1つとなっています。
耳管開放症の治療法
耳管開放症の原因は多岐にわたり、症状も個人差があるため、現在のところ決定的な治療方法が確立していません。
症状が軽ければ、とくに治療しなくても自然治癒するケースが多くみられます。
たとえば、体重減少が原因の場合は体重が元に戻り復調することで、妊娠中に発症した場合は出産することで、耳管開放症が治ることがほとんどです。
また漢方薬(加味帰脾湯など)の服薬で快方に向かったり、首にマフラーやネクタイを巻くことで症状が改善する場合もあります。
これらの方法で改善が見られないときは、次のような治療法がおこなわれる場合もあります。
生理食塩水点鼻療法
耳管を生理食塩水で塞ぐ治療法です。軽症の耳管開放症の場合、この治療法で十分な症状の改善がみられます。
- 仰向けまたは座ったまま頭を後ろに下げる
- 症状が見られる方(患側)が下になるように頭を傾けたまま点鼻
- 1回の点鼻で数滴~数ml。症状が消失するまで点鼻
点鼻した生理食塩水の大部分は咽頭へ流れますが、そのうちの一部が耳管に流れ、耳管を塞ぎます。
薬剤を使用しないので副作用がなく、使用回数や量にも制限がないため、合併症がある方も治療が可能です。
鼓膜をテープで固定し、動きを制限する
外耳道から鼓膜にかけてテープを貼り付けて、鼓膜の動きを制限します。
テープがずれたり剥がれたりするので、定期的な張り替えが必要となることが多いです。
手術療法
耳管開放症の症状がつらく、ここまで紹介した治療法で改善が見られない場合は、手術をおこなうこともあります。
- 鼓膜をテープで固定し、動きを制限する
- 鼓膜にチューブを入れて、鼓膜の動きを制限する
- 耳管ピン挿入術
耳管ピン挿入術とは鼓膜を切開し、耳管ピンというものを中耳側より挿入する方法です。一部の施設で行われています。
いずれも「この方法なら絶対に治る」というわけではなく、耳鼻咽喉科で医師と相談しながら自分に合った治療法をみつけることが重要です。
なお耳管ピン挿入術は、以前は保険適用外の手術でしたが2020年より保険適用になりました。
耳管開放症と診断されたら?普段から気をつけたいポイント
耳管開放症では治療はもちろん、普段の生活で気をつけるべき点がいくつかあります。
軽い症状であれば、これらの生活習慣を心がけることで快方に向かうことも少なくありません。
ゆったりとした生活を心がける
耳管の開閉は、自律神経によってコントロールされていると考えられています。
そのためストレスなどで自律神経が乱れ、交感神経が優位な状態が続くと、耳管が開きやすくなってしまいます。
普段からストレスをためない、規則正しい生活と食習慣など、自律神経のバランスを整えることを心がけることも大切です。
鼻すすりはNG
耳管が開いて引き起こされる不快な症状をなくそうと、無意識に鼻をすすってしまうことがあります。
鼻をすすると、耳管が一時的に狭くなるため症状が改善したと勘違いしがちです。
しかし、鼻をすすることで鼓膜がへこんだり、難聴の原因となる中耳炎を引き起こしやすくなったりしてしまうためNGです。
症状があらわれそうになったら横になる
長時間歩いたり、立ったりしていると、血液が足の方へ流れて耳管開放症の症状があらわれやすくなります。
このような場合には水分をしっかり補給し、脚が頭より高くなるように横になり、ゆっくり休養しましょう。
耳管開放症と間違いやすい「耳管狭窄症」とは?
耳のつまり感などの症状から耳管開放症と間違いやすい病気に、「耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう)」があります。
似た名前ですが、耳管開放症とは逆に耳管が狭くなってしまう病気で、治療法も異なるため注意が必要です。
風邪を引いたあとに耳管に起こった炎症や副鼻腔炎、アデノイドの肥大などが原因。
治療法として耳管に空気を通す「耳管通気法」があります。
しかしこの治療法は、一時的には症状の軽減を感じる場合もありますが、あまり効果はないと考えられます。
教えて院長先生!耳管開放症のよくある質問Q&A
耳管開放症のよくある質問とその回答を院長先生にお答えいただきます。耳管開放症で病院に行く目安を教えてください。
耳が詰まった感じが数日間続く様であれば病院受診をおすすめします。突発性難聴に知らないうちになっている可能性もあるためです。
耳管開放症は軽度の場合、治療をしたらどれくらいで症状は緩和されますか?
投薬により1週間程度で改善する場合も少なくありません。
耳管開放症はスカーフを巻くと症状が緩和すると言われていますがこれは本当ですか?
記事にあるように頸部を締め付けることは効果があるとされており、男性はネクタイ、女性はスカーフを用いると良いとされています。
まとめ
耳がつまった感じがする、自分の声が響く、自分の呼吸音が聞こえるといった不快な症状があらわれる耳管開放症。
聴力に異常はなく、一見したところ鼓膜も正常に見えやすいことから、診断がつきにくかったり異なる病気だと思われたりするケースも少なくありません。
そのため医師に詳しく症状について説明し、相談することが大切です。
- 耳管開放症は非常に不快な症状があらわれるが周囲から理解されにくい病気
- 耳管開放症は30~40代の女性に多くみられ推定患者数は600万人ほどいる
- 耳管開放症は決定的な治療方法が確立しておらず対症療法が主である
軽い症状であれば多くの場合、適切な治療や生活習慣を整えることで症状がおさまります。
耳に違和感を感じたら、できるだけ早く耳鼻咽喉科の専門医に相談し、適切な治療を受けましょう。
福岡市東区名島で、耳が詰まった感じがしたり、自分の声が響いたりしたらあだち耳鼻咽喉科へお越しください。
あだち耳鼻咽喉科では、耳管開放症の診断や治療が可能です。
また耳管開放症とは違う病気がみつかることもありますので、聞こえ方に違和感がある方はお気軽にあだち耳鼻咽喉科へご相談ください。