ひと昔前まで麻疹は大人になるまでにかかる病気のひとつで、誰もが若いうちに体験することを「はしかのようなもの」などと表現されていました。
しかし実際のところ、麻疹は重篤化したり、合併症によって死亡や後遺症が残る危険性もある病気です。
江戸時代には「命定めの病」と呼ばれ、非常に恐れられていました。
さらに感染力が非常に強く、1人の発症者から12〜14人に感染させるといわれています。
マスクや手洗いうがいといった予防策もあまり効果はなく、もっとも有効な方法はワクチン接種です。
今回は麻疹をテーマに原因や症状、ワクチンでの予防方法など詳しく解説しましょう。
目次
麻疹とは?極めて強い感染力が特徴
麻疹とは、麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。
人から人へのみ感染し、免疫のない人が感染すると90%以上が発病し、不顕性感染(感染しても症状があらわれないこと)がほとんどありません。
電車内で麻疹患者が咳をすると、免疫のない人の10人中9人にうつるといわれるほどの強い感染力を持ちます。
日本ではワクチン接種率の向上などにより、発症者数は大きく減少しました。
2015年にはWHO西太平洋事務局により、「日本は麻疹の排除状態にある」とされ、日本土着の麻疹ウイルスは根絶されました。
しかしいまだ海外ではしばしば大きな流行が起こり、麻疹ウイルスが旅行客から国内へ持ち込まれるケースも少なくありません。
2018年にも台湾人旅行者がバンコクで麻疹に感染したものの、気づかずに沖縄を訪れ、感染が拡大したニュースも記憶に新しいのではないでしょうか?
土着ウイルスが根絶されたとはいえ、これから東京オリンピックなどを控えてさらなるグローバル化が予想される日本では、国外からウイルスが繰り返し持ち込まれる可能性は非常に高いといえるでしょう。
麻疹の症状や経過
麻疹は10~14日ほどの潜伏期間を経たのち、次のような症状があらわれます。
- カタル期
はじめは38℃前後の発熱や咳、鼻水、倦怠感など風邪のような症状と、「コプリック斑」といわれるやや盛り上がった1mmほどの白い小さな斑点が頬の粘膜にあらわれます。コプリック斑は発疹が出現する1~2日前に出現します。 - 発疹期
コプリック斑の出現後は一旦熱は下がりますが、再度発熱し39℃以上が2~4日ほど続き、よりひどい咳や鼻水とともに、赤い発疹が全身に広がります。
カタル期と発疹期を過ぎると回復しますが、リンパ球機能など免疫力がひどく低下し、しばらくは風邪などを引きやすくなるため注意しましょう。
麻疹は高熱が長く続き、咳や鼻水の症状も重いため、合併症がなくても入院となるケースも多く見られます。
体力も大きく低下するため、完全に回復するには1ヶ月ほどかかる場合もあります。
また感染力がもっとも強いのは、症状が出る1日前からカタル期にかけてです。
そのため麻疹であることに気づかずに、周囲に感染を広げてしまうことも少なくありません。
症状が軽い修飾麻疹とは?
麻疹への免疫がまったくないわけではないが十分ではない人が感染した場合、軽症で典型的でない麻疹の症状があらわれ、これを「修飾麻疹」とよびます。
- 発熱期間が短い
- コプリック斑が出ない
- 発疹が全身ではなく手足のみにあらわれる
修飾麻疹では感染力も弱まりますが周囲へ感染させる場合もあるため注意が必要です。
妊娠中は麻疹の症状が重篤化しやすく、流産や早産の原因にも
麻疹の症状が重篤化しやすいのが妊娠中の女性です。
重症化だけでなく合併症や、流産や早産の原因となることもまれではありません。
周囲で麻疹が流行している場合には、外出や人との接触をできるだけ避けるようにしましょう。
麻疹の治療法
麻疹には根本的な治療法が未だありません。
症状に合わせた対症療法によって治療をおこないます。
もし感染した場合、家庭ではこまめな水分補給に気を配りましょう。
また重篤化や合併症などを見過ごさないためにも、注意深く経過観察することも重要です。
麻疹によって引き起こされる合併症
麻疹は合併症を引き起こす割合が全体の30%と高いのが特徴です。
場合によっては命を落とすケースもあるため、麻疹に感染したら合併症に注意する必要があります。
肺炎
もっとも多くみられる麻疹の合併症が肺炎です。
ウイルス性肺炎や細菌性肺炎の他に、成人の一部や細胞性免疫不全の状態のときに起こりやすい巨細胞性肺炎などがあります。
重篤になると死亡する場合もあるため、非常に注意が必要です。
中耳炎
細菌が中耳に入り込み感染することによって中耳炎になるケースも多く、麻疹患者の5~15%にみられます。
赤ちゃんや小さな子どもは症状を訴えることが難しく、耳だれによって気づく場合が多いようです。
心筋炎
心臓の筋肉に炎症が起こる心筋炎を合併する場合もありますが、一過性ですむ場合が多く、重大なケースはまれです。
クループ症候群
麻疹によってクループ症候群を引き起こすことも珍しくありません。
のどの咽頭部分が炎症を起こし、ゼイゼイしたり犬の遠吠えのような咳が出たりします。
場合によっては呼吸困難になることもあるため、注意が必要です。
脳炎
麻疹の1,000例に0.5~1%ほどの低い割合ですが、脳炎を発症することもあります。
致死率が15%と高く、肺炎とあわせて麻疹の二大死因といわれています。
また治癒後も20~40%には中枢神経系の後遺症が残るため、注意が必要な合併症です。
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
麻疹患者の10万人に1人という非常に低い割合ですが、亜急性硬化性全脳炎を発症する危険性があります。
難病に指定されており、麻疹にかかった後、7~10年という長い年月をかけて発症する、中枢神経系の疾患です。
知能障害や運動障害が徐々に進行し、手足がビクッと痙攣したり突然腰が砕けて倒れたりといった不随意運動があらわれ、経過とともに呼びかけにも応じられない寝たきりの状態になります。
とくに低年齢(2歳未満)で麻疹に罹患した場合にリスクが高いとされています。
現在治療法が確立されておらず、完治は難しい病気です。
麻疹の予防にはワクチンがもっとも有効!
麻疹は前述したように非常に感染力が強いことや、合併症を引き起こしやすいことから、事前の予防が重要です。
しかし麻疹のウイルスは直径が100~250nmと小さく、マスクや手洗いうがいなどで完全に予防できません。
そこでもっとも有効な予防方法はワクチンの接種です。
2006年以降、麻疹ワクチンを含むMRワクチンは2回の定期接種となっています。
1期を1才以上2才未満、2期を5才以上7才未満(年長時)に受けることで、しっかりと免疫をつけることが可能です。
1回の接種では抗体がしっかりできないケースもあるため、きちんと2回接種するようにしましょう。
まれに2回の接種でも十分に免疫がつかない場合が全体の約3%の割合でありますが、このような人でも軽症ですみ、周囲への感染力は弱いことが判明しています。
定期接種に該当する子どもたちはもちろん、1回のみの接種しか終わらせていない親世代もワクチンを接種することをおすすめします。
ワクチン接種により95%以上で免疫が獲得できるとされています。
麻疹に自然感染した方が免疫がつきやすい?
一度でも麻疹に感染すると、生涯に渡って免疫を獲得できます。
実際に今の50代以上の中高年世代は、その多くが大人になるまでに麻疹に感染したため、新たな患者となるケースはまれです。
しかし麻疹の重篤な症状や死亡、合併症の危険性、周囲へ感染者を増やしてしまうことなどを考えると、ワクチンによる予防がもっとも有効な方法です。
麻疹かも?と思ったら
万が一、麻疹に感染したかもと思ったら、自分の身を守ることはもちろんですが、同時に周囲へ感染させないことも重要です。
医療機関を受診する際は、あらかじめ電話で問い合わせましょう。
移動の際は公共交通機関を利用せず、スーパーやコンビニなどにも寄らないようにしてください。
麻疹患者と接触したら?
もし免疫を持たずに麻疹患者と接触してしまった場合、72時間以内にワクチン接種を受けることで発症を予防できる可能性があります。
MRワクチンの定期接種は1才以上ですが、周囲で麻疹の流行がみられる場合、6ヶ月以上の乳児であれば緊急避難的に任意でワクチンを接種することが可能です。
ただし、1才以降に受ける定期接種にはカウントされないので注意しましょう。
また、妊婦さんや先天性の免疫不全など、ワクチン接種ができない人の場合には、「ガンマグロブリン」という血液製剤の注射を4~6日以内に受けることで、発症を防げる可能性があります。
しかし副作用があるなど使用上には注意が必要なため、医師と十分に話し合ってから受けるようにしましょう。
まとめ
麻疹はめずらしい病気ではありませんが、重症化や合併症の危険性、強い感染力などから、ワクチンでしっかり予防することが大切です。
土着ウイルスは根絶されましたが、海外からの旅行者などから麻疹ウイルスが持ち込まれ、流行するケースも近年は少なくありません。もし免疫を持たないまま感染し、重篤な症状や合併症を引き起こしたり、万一にも命に関わったりしてしまったらと考えるとおそろしいですよね。
- 麻疹は感染力が強く、1人の発症者から12~14人感染する
- 麻疹の最も有効な予防法はワクチン接種
- 麻疹は合併症を引き起こす割合が全体の30%と高い
まず子どもにはきちんと2回のワクチン接種を受けさせ、自分自身の接種状況も母子手帳などで認してみましょう。
未接種、もしくは1回の接種のみの場合には、医療機関でワクチン接種について相談してみることをおすすめします。
「麻疹くらいで…」などと思わず、きちんとワクチンで予防することが大切です。