耳の下には耳下腺とよばれる組織があり、何らかの原因によって腫れることがあります。
よく知られている病気には「おたふくかぜ」が挙げられますが、じつはその他にもさまざまな耳下腺にまつわる疾患があるのをご存じでしたか?
今回は耳下腺が腫れたり痛んだりする病気について、それぞれ詳しくお伝えしましょう。
目次
耳下腺とは?
耳下腺とは両耳の下にあり、唾液を分泌する「唾液腺」のひとつです。
ちなみに他にも唾液腺には顎の下にある「顎下腺(がっかせん)」といった大唾液腺や、口の中や咽頭のさまざまな箇所の粘膜にある「小唾液腺」などがあります。
おたふくかぜだけじゃない?子どもがかかりやすい耳下腺が腫れる病気
耳下腺が腫れる一般的な病気はおたふくかぜですが、その他にも似た症状があらわれる疾患もあり、パッと見ただけでは区別がつかないこともあります。
しかし診察や検査を受ければ診断できるため、耳下腺のあたりが腫れていると感じたら、まずは医療機関を受診しましょう。
耳下腺が腫れる、痛むといった症状があらわれる病気には次のようなものが挙げられます。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
耳下腺やそのほかの唾液腺の組織にムンプスウイルスが感染し、炎症を引き起こすことによって発症します。
ムンプスウイルスは感染力が強く、小学校や幼稚園、保育園などで集団感染を引き起こすことも少なくありません。
とくに春から夏にかけて流行しやすいのも特徴です。
症状
まず片方の耳下腺が腫れた後、1~2日後にもう片方も腫れるケースが一般的ですが、片方しか腫れないこともあります。
酸っぱいものを食べたり、ものを飲み込んだりする際にうずくような痛みが発生しやすくなります。
また発熱も多くみられますが3~4日ほどで落ち着き、耳下腺の腫れも1週間ほどでおさまる場合がほとんどです。
その他には頭痛や筋肉痛、倦怠感、食欲低下など風邪のような症状もみられます。
注意したい合併症
おたふくかぜで注意したいのは合併症です。
ウイルスが内耳に入り込むことで引き起こされるムンプス難聴」は、500~3,000人に1人という比較的高い確率で合併「します。
多くが片耳のみの発症ですが、まれに両耳が聞こえなくなってしまうこともあります。
ムンプス難聴には今のところ治療法がないため、回復不能な高度難聴となってしまうケースがほとんどです。
その他にも無菌性髄膜炎や膵炎、大人では精巣炎や卵巣炎、まれに脳炎などを引き起こすこともあります。
治療法
おたふくかぜの原因となるムンプスウイルスには有効な抗ウイルス薬がありません。
そのため現在は対症療法での治療となり、熱や痛みをおさえる消炎鎮痛剤が処方されます。
家庭では酸っぱいものや固いものを食べるのは避け、ゆっくりと安静に過ごすことで症状はおさまっていく場合がほとんどです。
おたふくかぜは学校保健安全法で第二種に指定されているため、耳下腺の腫れが引き、全身状態が良好となるまでは出席停止となります。
また、おたふくかぜのもっとも効果的な予防法はワクチン接種です。
自然感染よりもはるかに安全に免疫を獲得できるので、難聴などの合併症を防ぐためにもワクチンを接種しておくことをおすすめします。
反復性耳下腺炎
耳下腺が腫れる病気で、おたふくかぜと間違いやすいのが「反復性耳下腺炎」です。
はっきりとした原因はまだ不明ですが、先天性の異常やアレルギー反応、疲労や虫歯などが関係しているのではないかと考えられています。
「反復性」の名前の通り繰り返しやすく、早ければ1才未満に発症し、5~6才をピークとして、年に数回引き起こします。
しかし小学校高学年くらいになるとあまりみられなくなり、その後思春期をすぎるころには症状がなくなるケースがほとんどです。
症状
片側だけが腫れる場合が多いものの、両側腫れたりや交互に腫れを繰り返したりすることもあります。
痛みはおたふくかぜほど強くはなく、熱も通常は出ないことがほとんどです。
腫れや痛みは2~3日でおさまる場合が多く、周りに感染させることはありません。
治療法
治療は対症療法となり、痛みや腫れをおさえる薬が処方されます。
初めて発症した際にはおたふくかぜとの区別は難しく、繰り返し発症することで診断されます。
おたふくかぜではないことを証明するために、必要に応じて血液検査やエコーなどで検査を実施します。
もし反復性耳下腺炎かも? と思われる症状があらわれたら、以後の診断の際に役立つ可能性があるため、記録をつけておくとよいでしょう。
化膿性耳下腺炎
「化膿性耳下腺炎」とは黄色ブドウ球菌や溶連菌、肺炎球菌など口の中にいる細菌が、耳下腺に入り込むことで引き起こされる急性の化膿症です。
反復性耳下腺炎と同じく、はじめの症状ではおたふくかぜと区別が難しいことがあります。
症状
耳下腺が細菌に感染することで内部に膿が溜まり、腫れや痛み、皮膚の発赤を引き起こします。
腫れた耳下腺を押すと膿が口腔内に排出され、膿が全体に溜まると波をうつような波動感があらわれます。
治療法
細菌の感染が原因のため、抗生剤が投与されます。
痛みが強い場合はおさえる薬や冷湿布なども処方され、症状がひどい場合には入院治療や、切開して膿を排出する場合もあります。
耳下腺が腫れたら耳鼻咽喉科の受診を
じつは耳下腺や顎下腺、唾液腺などは耳鼻咽喉科の専門領域です。
耳下腺のまわりが腫れたり、おたふくかぜかその他の耳下腺炎なのか判断がつかなかったりする際は、耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。
ここからは、耳下腺が腫れたり痛んだりする疾患をさらにいくつかご紹介します。
シェーグレン症候群
口の中や目の乾燥をきたす病気で、唾液腺の腫れを認めることも多い病気です。
虫歯が増えたり、関節や筋肉の痛みを感じることがあります。
自己免疫疾患の一つであり、専門医の受診が重要です。
IgG4関連疾患:ミクリッツ病など
IgG4陽性の形質細胞の浸潤および繊維化を唾液腺にきたす疾患で、唾液腺や涙腺などが腫れる病気です。
採血にてIgG4の上昇を認めます。ステロイドを中心とした治療を行い、予後は良好とされています。
慢性繊維素性唾液管炎
ゼリー状の唾液がステノン管から排出される疾患で、女性に多く通常は一側性の耳下腺の腫れを認めます。
アレルギーの関与が言われており、抗アレルギー剤やステロイドなどが投与されます。
唾液腺症
非炎症性の両唾液腺腫脹を認める疾患群です。
薬剤の影響や摂食障害、栄養失調などで起こることが多く、基本的にはもともとの病気の治療のみで、経過観察を行います。
耳下腺が腫れる病気には腫瘍性疾患も
耳下腺が腫れるのは腫瘍が原因の場合もあり、子どもにみられるケースは少ないですが、20代からの若年層が発症することもあります。
耳下腺にあらわれる良性腫瘍としては「多形腺腫」と「ワルチン腺腫」と言われるものが多くみられます。MRI検査を行うことで、ある程度の診断が可能です。
おたふくかぜなど炎症性の疾患は耳下腺が全体的に腫れるのに比べ、腫瘍性疾患は部分的に腫れ、やや硬い、痛みもほぼないのが特徴です。
しかし良性腫瘍の場合が多いものの、まれに悪性だったり、のちに悪性化したりといったおそれがあります。
また徐々に腫瘍が増大していくことや、摘出してみなければ良性か悪性か診断が確定しないことなどから、基本的には手術での摘出が治療の唯一の方法です。
まとめ
耳下腺が腫れる症状があらわれる病気は、おたふくかぜをはじめとしてさまざまな種類があります。
炎症性の疾患は痛みがある上に、発熱や食欲不振などの症状もあらわれると、小さな子どもにはきついですよね。
- 耳下腺が腫れたり痛んだりする病気は必ずしもおたふくかぜとは限らない
- 耳下腺が腫れたり痛んだりする病気とおたふくかぜは素人では区別がつかないので耳鼻科へ受診する
- 耳下腺が腫れる原因の1つに腫瘍性の疾患があるので早めの受診が大事
耳の下が腫れて痛がるなどの症状がみられたら、できるだけ早く医療機関を受診するようにしましょう。
また大人の場合には腫瘍性の疾患であるおそれもあるため、同じく早めの受診をおすすめします。