出産後すぐに入院先の病院でおこなわれることの多い、新生児聴覚スクリーニング検査。
1,000人に1〜2人といわれる、他の先天性疾患と比べて確率の高い先天性難聴を、少しでも早く見つけるための検査です。
しかし、もし検査に引っかかったからといって、必ず難聴であるというわけではありません。
新生児聴覚スクリーニング検査は、もし聴覚になんらかの異常があった場合にできるだけ早く発見し、適切な対処につなげるためにおこなわれます。
そのことが早期の発見がその後の言語習得に非常に重要であるからです。
今回は新生児におこなう聴覚スクリーニング検査や、先天性難聴について詳しく解説しましょう。
目次
新生児聴覚スクリーニング検査とは?
新生児聴覚スクリーニング検査とは、聞こえに関する簡易的な検査のこと。
調査によると、令和元年度には出生児の90.8%にこの検査がおこなわれました。
2002年度においては約30%だったため、大きく増加しているのが分かりますが、まだ100%には至っていないのが現状です。
「スクリーニング検査」とは選別にかけるための検査、という意味です。
つまり聴覚に異常があるかどうかではなく、精密検査の必要性について判断する検査という点を理解しておきましょう。
実際に新生児聴覚スクリーニング検査で再検査となり精密検査を受けた結果、まったく異常がなかったというケースも非常に多くみられます。
新生児聴覚スクリーニング検査の方法
新生児聴覚スクリーニング検査は、多くの場合で産後3日以内に出産した病院でおこなわれます。
もしくはは一ヶ月健診の際におこなう場合もあるため、事前に確認しておくとよいですね。
また、入院先の病院でスクリーニング検査を実施していない場合には、おこなっている病院を紹介してもらい、生後1ヶ月までの早いうちに検査を受けるようにしましょう。
検査にはママやパパが立ち会う必要はなく、赤ちゃんが寝ている間の10分ほどで終わります。
もちろん安全で、痛みや違和感もないため、赤ちゃんにもほとんど負担になりません。
耳に羊水や耳垢が詰まっている場合には聞こえの反応が悪いことが多く、入院中に数回に渡って検査をおこなう場合もあります。
現在は次のような2つの方法で、新生児聴覚スクリーニング検査がおこなわれています。
1.自動聴性脳幹反応(Automated ABR)
赤ちゃんに電極を装着し、ある一定の音を聞かせて、脳幹からの電気的反応をみる検査です。
内耳から脳までのどこに異常があるか分かり、軽度の難聴から発見できます。
また、基本的にはすべての難聴を検出することが可能です。
2.耳音響反射(OAE)
イヤフォンから聞こえる音に対して、内耳にある蝸牛が反応して反響する音を検出して判断する検査です。
ただ、AABRより偽陽性率が高く、オーディトリーニューロパチーを見逃す(偽陰性の)可能性がありますので、可能であればAABRを行うべきです。
検査費用
新生児聴覚スクリーニング検査にかかる費用は医療保険適用外となっており、基本的に自費負担です。
だいたい2,500~6,000円くらいが一般的ですが、各病院によって異なります。
また、お住まいの自治体によっては公費助成が出たり、無料になったりする場合もあるので、事前に問い合わせておくとよいでしょう。
新生児聴覚スクリーニング検査で「要再検(リファー)」といわれたら?
新生児聴覚スクリーニング検査の結果、「要再検(リファー)」といわれたら、できるだけ早く、聞こえの専門医のいる大きな病院で精密検査を受ける必要があります。
1,000人のうち4人がリファー(要再検)となり、そのうちの2人は正常化し、1人は片耳難聴、1人は両耳難聴であると報告されています。
2018年11月現在、精密検査は全国で171機関で受けることが可能です。
精密検査ではより精度の高い機器を使った検査や、およその聴力レベルの診断などをおこないます。
また音に対する赤ちゃんの反応などをみて総合的に判断した結果、聞こえに問題があれば、今後の治療や療育の方針など、これからについて道筋を立てます。
新生児聴覚スクリーニング検査において両耳ではなく、片側の耳のみ要再検といわれる場合もあります。
その場合、精密検査で片耳のみの聴覚異常(一側性難聴)と診断されたとしても、言語やコミュニケーション能力の習得にはあまり影響ありません。
しかし聞こえる方の耳に負担がかかるため、定期的に診察や指導を受ける必要があります。
なぜ早期の検査が必要?
出生後すぐに聴覚スクリーニング検査をおこなうのは、できるだけ早く聴覚の異常を発見して対処するためです。
万が一、聴覚に障害がある場合、できるだけ早いフォローが言語の発達やコミュニケーション能力の習得に影響を与えます。
聞こえの問題は外見からは分からないため、診断の遅れを防ぐためにも、少しでも早い検査が重要です。
難聴と診断されても、生後6ヶ月までに補聴器をつけることで、言語習得の大きな助けとなります。
アメリカのある調査によると、生後6ヶ月までに補聴器をつけた子どもは3歳までに、聴覚に障害のない子の約90%の言語力を習得できたんだとか。
一方で1歳以降に補聴器をつけた子どもは、70~80%の習得にとどまったそうです。
ことばは目で見て、耳で聞いて覚えるため、聴覚に障害があると言語の習得に非常に時間がかかってしまいます。
新生児聴覚スクリーニング検査で早期に異常を発見し、できるだけ早い時期から適切に対応することで、子どもの未来の可能性を広げることができます。
新生児スクリーニング検査で分かる先天性難聴とは?
先天性難聴の約半数は、遺伝的な要因が原因と考えられています。
しかし必ずしも親や近親者に聴覚障害を抱えている人がいない場合も少なくありません。
その場合、ママとパパの遺伝子の偶然の組み合わせが原因の場合もあるようです。
また遺伝の他にも、妊娠中にかかった次のような疾患が原因で、赤ちゃんの難聴を引き起こしてしまうケースも多くみられます。
- 風疹
- サイトメガロウイルス
- トキソプラズマ
- ヘルペス感染
- 梅毒
とくに近年では風疹が流行しているため、妊婦さんや妊娠を考えている方は要注意です。
また、37週未満で生まれた低出生体重児も聴覚に障害があらわれるリスクが高くなります。
その他にも耳の内部の構造や神経などが奇形で生まれついたことが原因で、難聴となるケースもあります。
成長過程で難聴になる場合も
新生児聴覚スクリーニング検査やその後の精密検査で異常がみられなかったとしても、その後の成長過程でかかった疾患が原因などで、後天的に難聴となる可能性もあります。
後天的な難聴の原因としてもっとも多いのが、滲出性中耳炎です。
聞こえの症状としてはあまり重くないものの、長期に渡って聞こえにくい状態が続くため、ことばの習得に大きな影響を与えるケースが多くみられます。
その他にも次のように、さまざまな後天的難聴の原因があります。
- 髄膜炎による中耳障害
- おたふく風邪
- 頭部の怪我
- さまざまな感染症
- 抗生物質(ストレプトマイシン)による副作用
- 過労やストレスなど心因的な負担
このような原因が挙げられる一方で、まったく理由の分からない原因不明の難聴も多く存在します。
難聴は外からは見えないため、身近な人が早く異変に気づくことが重要です。
大きな音にびっくりしない、名前を呼んでも振り向かない、ことばやおしゃべりが少ない、など気になる点が見られたら、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。
まとめ
新生児聴覚スクリーニング検査は、いち早く赤ちゃんの聴覚障害を見つけて対応することが目的です。
あくまで簡易的な検査であり、「再検査=難聴」というわけではありません。
その後の精密検査で詳しく調べたのちに、正しく診断されます。
- 新生児聴覚スクリーニング検査は聴覚の異常を見つける検査ではなく、精密検査の必要性を判断する検査
- 新生児聴覚スクリーニング検査では片耳だけ要検査と言われることもある
- 原因不明の難聴もあるので身近な家族ができるだけ早く見つけてあげることが大事
新生児聴覚スクリーニング検査は医療保険の適用ではなく自費診療のため、検査を受けるのに戸惑ってしまうかもしれません。
しかし難聴は遺伝だけが原因ではなく、もしも赤ちゃんに聴覚の障害があった場合、一刻も早い対応が必要です。
万が一に備えるためにも、新生児聴覚スクリーニング検査を受けることをおすすめします。