においが分からない、感じにくい状態が長引いているなら、嗅覚障害のおそれがあります。
しかし、直接命に関わったり、視覚や聴覚のように暮らしに大きな影響を与えたりすることが少ないことから、あまり気にせず治療も受けていないという方も多いのではないでしょうか。
嗅覚障害を放っておくと、食べ物の味を感じにくく食事の楽しみが減ったり、季節の香りを感じにくくなったりと、生活の質を下げてしまうことにつながります。
また、ガス漏れや腐った食べ物のにおいが分からないなど、時に命や健康への危険を及ぼすこともないとはいえません。
今回は嗅覚障害をテーマに、原因や検査方法、治療法、普段の暮らしで気をつけたい点などについて解説しましょう。
目次
嗅覚障害の症状はさまざま
一概に嗅覚障害といっても、その症状はさまざまです。
- 嗅覚機能が低下し、においを感じにくくなる症状
- においがまったく分からなくなる症状(無臭症)
- 本来よいはずのにおいを悪臭に感じてしまう臭覚錯誤(異臭症)
- 嗅覚が過敏になる症状
1つの症状だけあらわれることもありますし、複数の症状が伴うこともあります。
においが伝わる仕組みと原因
嗅覚障害について解説する前に、私たちがどのようにしてにおいを感知しているのか知っておきましょう。
- におい物質が気体となり鼻の中に吸い込まれる
- 気体が嗅粘膜へ吸着し、嗅神経へ
- 嗅神経から大脳の中にある臭球へ伝わり臭いを認識
この経路のどこかに異常があると、においが分からない、分かりにくくなる嗅覚障害を引き起こしてしまいます。
嗅覚も他の機能と同じように老化するため、年齢が原因となる場合も少なくありません。
とくに高齢となり、70歳を過ぎると嗅覚が弱くなる傾向がみられます。
また、年齢の他にもその日の体調なども、嗅覚を左右する場合があります。
嗅覚障害の種類
嗅覚障害は、においが伝わる経路のどこに異常があるかによって、3つの種類があります。
- 呼吸性嗅覚障害
- 末梢神経性嗅覚障害
- 中枢性嗅覚障害
また1つだけでなく、複数の種類の嗅覚障害を伴う混合型の場合も少なくありません。
適切な治療をおこなうためには、どこで異常や障害が起こっているかを突き止め、どの種類なのか判別することが大切です。
次に嗅覚障害の種類をそれぞれ解説しましょう。
におい分子が鼻のセンサーまで届かない「呼吸性嗅覚障害」
気体となったにおい物質が、鼻の奥のにおいを感じるセンサー(嗅細胞)まで届かないことによる嗅覚障害です。
風邪や慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎などにより、鼻の粘膜の腫れやポリープ(鼻茸)がにおい物質の到達を邪魔してしまいます。
アレルギー性鼻炎の症状については、以下の記事に詳しく書かれていますので合わせてご覧ください。
とくに副鼻腔炎は嗅覚障害を起こしやすく、嗅覚障害の約半数近くは副鼻腔炎が原因です。
また、鼻中隔と呼ばれる鼻の中を左右にしきる壁が曲がっている「鼻中隔湾曲」が原因の場合もあります。
センサーが弱ったり壊れたりする「末梢神経性嗅覚障害」
においを感じるための嗅細胞が何らかの原因で障害を起こし、センサー機能が弱ったり壊れたりしてしまうことによる嗅覚障害です。
風邪や感染症の後にウイルスが嗅覚細胞を攻撃したり、交通事故などで頭部に外傷を受けたりすることが原因となります。
さらに加齢による嗅覚障害もこのケースにあてはまります。
また、薬の服用によって血液中の亜鉛が不足することも嗅細胞に影響を与えます。
脳の障害による「中枢性嗅覚障害」
嗅細胞と嗅球の間が何らかの原因で断絶されるために、においを感じられなくなる嗅覚障害です。
脳腫瘍や脳挫傷、脳血管障害が原因となる他にも、アルツハイマーやパーキンソンの初期症状の場合もこのケースに当てはまります。
嗅覚障害の診察・検査
嗅覚障害の診察では問診が非常に重要で、原因や障害の程度は問診である程度予想できます。
「最近風邪をひきましたか」「転んで頭を打ちましたか」といった質問や、においをどの程度感じているかなど自覚症状について答えてもらいます。
その後は内視鏡を使って鼻の中を観察し、炎症や腫れの程度を確認します。
必要に応じてレントゲンやCT、MRIといった画像診断をおこなう場合もあります。
CTやMRIでは、鼻腔内の様子をより詳しく観察し、嗅神経や嗅球といった嗅覚にまつわる経路についてもみることが可能です。
さらに、しっかりと原因を特定するために、次のような検査がおこなわれる場合もあります。
- 嗅覚測定用基準嗅力検査
いくつかの種類のにおいを用意し、それぞれ濃度を変えた試薬をかぎわける検査 - 静脈性嗅覚検査
ニンニクのにおいがするビタミン剤(アリナミン)を静脈注射し、においを感じるまでの時間とにおいがどのくらい続くかで判断する検査。全く反応がないと嗅覚脱失と診断され改善の可能性は低いと診断される
このような問診や診察、検査を総合的に判断して、その後の治療法を決めていきます。
嗅覚障害の治療法
それでは、嗅覚障害では実際にどのような治療法がおこなわれるのでしょうか?
- 投薬治療
- 手術療法
それぞれ詳しく見ていきましょう。
投薬治療
呼吸性嗅覚障害の場合、ステロイド点鼻薬やビタミン剤、血流改善の薬などが処方されます。
中でもステロイド点鼻はよく行われる治療で嗅神経周囲の炎症や膿を改善することを目的とされています。
加えて抗アレルギー薬や、それぞれの疾患にあわせた治療や投薬もおこなわれます。
また、末梢神経性や中枢神経性の嗅覚障害は難治性であったり、完治までに時間がかかったりする場合も多く、漢方薬やビタミンB12の処方で、根気強く治療していくことが大切です。
手術療法
副鼻腔炎は嗅覚障害の原因としてもっとも多く、手術によって疾患そのものを根本的に治療することが必要な場合もあります。
とくに近年増えている副鼻腔炎の「好酸球性副鼻腔炎」は嗅覚障害を引き起こしやすく、さらに手術をしても再発の可能性があるやっかいな病気です。
主治医としっかりと相談し、手術するかどうかを検討しましょう。
また曲がった鼻中隔をまっすぐにするなど、嗅覚障害の大きな原因となっている疾患の手術をおこなうことで改善に導きます。
嗅覚障害を防ぐにはどうすべき?
普段の暮らしのなかで嗅覚障害を防ぐことはできるのでしょうか?
もちろん完全に予防することはできませんが、次のような点を心がけることで、嗅覚障害に早めに気づけ、早期治療につなげることが可能です。
風邪や感染症に気をつける
嗅覚障害で多いのが、風邪や副鼻腔炎が原因となるケースです。
副鼻腔炎も風邪が原因の場合が多く普段から手洗いうがいを心がけ、規則正しい生活や栄養バランスのとれた食事をとり風邪を予防しましょう。
自分の嗅覚を意識する
普段の生活の中で自分の嗅覚を意識する機会は少ないのではないのでしょうか?
身近なもののにおいをいつも意識するようにしていると、嗅覚の衰えにも早く気づくことができます。
普段から、草花や料理などのにおいを嗅ぐことを習慣付けておくよいでしょう。
何の香りだろうと意識しながらにおいをかぐことは、においを感じる経路を強めると考えられています。
鼻づまりなどを放っておくと、嗅覚細胞が使われないために衰えていき、嗅覚障害を加速させてしまう場合もあります。
嗅覚低下の予防の面からも、普段から香りを意識した暮らしを送るとよいですね。
まとめ
嗅覚障害にはいくつかの種類があり、においを感じる経路のどこかに異常や障害がおこることが原因です。
においが分からなくても直接命に関わることは少ないものの、放っておくと、日々に楽しみを感じられなくなるなど、暮らしの質の低下が懸念されます。
においに不安を感じたら、原因を正しく突き止め、適切な治療を受けましょう。
- 嗅覚障害は臭いを感知する経路に異常がみられたときに起こる
- 嗅覚障害は1つの障害だけでなく複数の障害が混合していることもある
- 嗅覚障害の治療は長引くので早期発見・治療が大切
嗅覚障害は治療の開始が早いほど回復しやすいので、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診することが大切です。