食事は人生の楽しみのひとつ。とくに歳を重ねるとその思いは強くなる傾向にあります。
しかし同時に高齢になるにつれ、味覚障害を起こすことも多く、日々の楽しみを失ってしまったと感じている方も少なくありません。
直接命に関わる障害ではないからと放置しているケースも多くみられますが、食事がおいしく感じられないことは健康を害する危険性も含んでいます。
たとえば食欲不振から食事が食べられなくなったり、濃い味付けで塩分や糖分を取りすぎてしまったりなど、栄養障害につながる場合もあります。
また最近では、10代や20代といった若い世代に味覚障害を引き起こす人も増えています。
今回は味覚障害をテーマに詳しく解説していきましょう。
目次
味覚障害は味がしなくなる?他にもあるいろいろな症状
味覚障害には味が感じられなくなるだけでなく、他にもさまざまな症状があります。
味を感じられないわけじゃないけれど、口の中に違和感があるなら、それは味覚障害かもしれません。
- 味覚消失
- 味覚減退
- 異味症
- 自発性異常味覚
- 解離性味覚障害
- 悪味症
- 風味障害
それぞれ詳しくみていきましょう。
味覚消失
味を感じられなくなる症状です。
ひどくなると、何を食べても消しゴムを噛んでいるような味気なさになってしまうこともあります。
味覚減退
味の感じ方が鈍くなる症状です。
全体的に味が薄く感じられるようになるため、料理の味付けが濃いことを家族に指摘されて判明するケースも多くみられます。
異味症
甘いものを食べているのに苦く感じてしまうというように、実際の味とは異なる味に感じられる症状です。
自発性異常味覚
口に何も入れていないのに苦味や渋みを感じる症状です。
解離性味覚障害
甘みだけが感じられなくなるなど、味覚の中の特定の味がわからなくなる症状です。
悪味症
何を食べてもまずく、いやな味に感じられる症状です。
風味障害
鼻に症状があると嗅覚障害に伴い味覚障害が生じることがあります。
亜鉛不足?味覚障害の原因はさまざま
味覚障害の原因はさまざまあり、最も多いものは薬剤性(服用薬の副作用)の味覚障害ですが、おもな原因は血液中の亜鉛不足です。
ほかにも感冒後、全身疾患に伴うもの、心因性、医原性、外傷性のものなどがあります。
そもそも、おもに私たちは舌の表面にある「味蕾(みらい)」によって、味を感じています。
味蕾は短い周期で細胞が生まれ変わり、その際に亜鉛が多く必要です。
そのため亜鉛が不足すると細胞の生まれ変わりがスムーズにいかないため、味覚障害を引き起こしてしまうのです。
亜鉛不足は、加齢やドライマウスなどによって引き起こされます。
また降圧剤や抗鬱剤、抗菌剤、抗がん剤といった数多くの薬にも、亜鉛の吸収を阻害したり唾液の分泌を少なくしたりといった作用を持つものが多く、薬の副作用によって引き起こされているケース(薬物性味覚障害)がもっとも多いとされています。
さらに加工食品やファストフードなどには、亜鉛を体内に排出してしまう添加物を多く含むため、バランスの悪い偏った食事も味覚障害の原因になります。
その他にも糖尿病などさまざまな病気の合併症や、精神的なストレス、脳腫瘍や頭部外傷などによって味覚に関わる中枢神経に異常が起こることも原因となる場合があります。
また亜鉛以外にも鉄や銅、ビタミンB12の欠乏により生じることもあります。
味覚障害は早期発見がポイント
味覚障害は知らず知らずのうちに症状がすすみ、気づくと症状がかなり進行している場合も多くみられます。
少しでも早く治すためには、早期発見がポイントです。
味を感じにくい、食事がおいしくなくなったなどの症状がみられたら、できるだけ早く医療機関へ相談に行きましょう。
味覚障害に関する専門的な診断や治療は耳鼻咽喉科でおこなっており、専門外来のある病院もあります。
まずはお近くの耳鼻咽喉科に相談してみるのもおすすめです。
味覚障害の診察や検査方法
味覚障害かどうかは、問診や視診、さまざまな検査を通じて診断されます。
まず問診で症状の程度や期間、生活習慣持病の有無や服薬歴、ストレスの状況などを詳しく調べ、口の中や舌の状態を視診によって確認します。
その後、血液や尿の検査で、肝機能や腎機能、血液中に亜鉛が不足していないかなどをみます。
ただ亜鉛が検査上欠乏していなくても潜在的に欠乏していうような場合もあります。
さらに、濃度の異なる数種類の味の感じ方を調べる「ろ紙ディスク検査」や、電気刺激によって神経の働きをみる「電気味覚検査」がおこなわれ、味覚障害があるかどうかを調べます。
味覚障害の原因はひとつである場合は少なく、実際にはいくつもの原因が重なっているケースが多いため、検査はもちろん問診や視診でも詳しく探っていく必要があります。
味覚障害の治療法
味覚障害の治療は、不足している亜鉛を多く摂取することが基本です。
症状の程度によって亜鉛製剤を処方され、必要に応じてビタミン剤や漢方薬を治療に使用する場合もあります。
最近は亜鉛欠乏症の味覚障害に対する治療薬もあります。
加えて亜鉛の吸収を阻害する薬の服用を見直したり、ドライマウスなどの口腔内疾患を治療したりと、それぞれの原因に対する治療もおこないます。
また心因性の味覚障害の場合には、抗うつ薬や抗不安薬などによる治療をおこなうことで、症状の改善が期待できます。
注意したいのが、薬剤性の味覚障害の場合です。
自己判断で服薬をやめたり、量を減らしたりすることは、その病気の治療に大きな影響を与える場合があります。
場合によっては原因となる薬の服用はやめずに、別の薬の服用によって治療を行うこともあります。
自分で判断せず、必ず医師に相談し、医師の指示に従うことが大切です。
味覚障害の改善には亜鉛の積極的な摂取が重要
病院での治療に加え、普段の食事のなかで亜鉛を積極的に摂取することも、味覚障害の症状を改善へと導きます。
亜鉛は、1日に成人男性で10mg、成人女性で8mg、妊娠中や授乳中は追加で2~3mgの摂取が推奨されています。
しかし、実際には摂取できていない場合が多く、さらに摂取された大半の亜鉛は体外に排出されてしまうため、意識して亜鉛を摂取することが重要です。
それでは次に、亜鉛を効率的にに摂取するコツをご紹介しましょう。
亜鉛を多く含む食材を摂ろう
亜鉛を多く含むおもな食材は、牡蠣やかになどの魚介類、牛肉やレバー、乳製品、海藻、ココアや豆類などです。
亜鉛は水溶性のため、調理の際には短時間で加熱して水分が出ないようにしたり、汁ごと食べられるスープなどにしたりするとよいでしょう。
亜鉛は2g以上の摂取で体にとって毒となるものの、食材に含まれる亜鉛は多くても可食部の10%ほどにしかなりません。
さらに前述したとおり、摂取してもすべてが吸収されるわけではないため、食事で積極的に亜鉛をとることは危険ではありません。
毎日の食事に意識して亜鉛を多く含む食材を取り入れるようにしましょう。
クエン酸やビタミンCとともに摂ると吸収力アップ
クエン酸やビタミンCは亜鉛の吸収を促進するため、一緒に摂取することをおすすめします。
レモンなどの柑橘類を添えたり、酢を使った調理をおこなったりするとよいでしょう。
アルコールや加工食品、ファストフードはほどほどに
アルコールを摂取すると酵素の働きでアルコールを分解し、その際に亜鉛を多く必要とします。
お酒の席では亜鉛を多く含む食材をおつまみとして口にするとよいでしょう。
もちろんお酒の量はほどほどに控えることも忘れずに。
また加工食品やファストフードには、亜鉛の吸収を阻害する添加物が多く使われています。
若い世代の味覚障害は、加工食品やファストフードがメインの乱れた食生活が原因の場合も少なくありません。
できるだけバランスのとれた食生活を心がけるようにしたいですね。
サプリメントの使用は医師と相談しながら
毎日の食事で亜鉛を十分に摂取できない場合には、サプリメントを使うのもひとつの方法です。
ただし、食事での不足分を摂取するのにとどめ、過剰摂取にならないように注意しましょう。
サプリメントの摂取は医師に相談しながらおこなうのがおすすめです。
まとめ
味覚障害は多くの場合、亜鉛不足によって引き起こされます。
亜鉛が不足する原因はひとつではなくいくつも重なっている場合も多いため、病院できちんと診断を受け、原因に応じた治療をおこなうことが重要です。
- 味覚障害の多くは亜鉛不足によって引き起こされる
- 亜鉛が不足してしまう主な原因は薬剤の副作用によるもの
- 乱れた食生活が味覚障害の原因になることもある
また普段の生活から亜鉛を積極的に摂取することも忘れずに。
亜鉛不足は味覚だけでなく、他の障害を引き起こす場合もあります。
普段の生活で少しでも気になる点があれば、できるだけ早く医療機関へ相談に行きましょう。