2023年5月から、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げることを決定しました。
新型コロナウイルス感染症から怯える日々から解放されつつありますが、まだ安心するのは早いでしょう。
なぜなら、新型コロナウイルスに感染した人の中には療養期間後、後遺症に悩まされている人も少なくないからです。
今回は、新型コロナ後遺症とは何か、主な症状や問題点、耳鼻咽喉科で治療できる症状をご紹介します。
目次
新型コロナ後遺症とは?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染し、症状が回復した後も、様々な症状が長期間続く状態を「新型コロナ後遺症」と呼びます。
世界保健機関(WHO)は新型コロナ後遺症を次のように定義しています。
新型コロナ後遺症の症状は、新型コロナ感染後に発症したものをいう。少なくとも2ヶ月以上持続し、他の疾患による症状として説明がつかないものである。
参照:新型コロナウイルス感染症診療の手引き 別冊|厚生労働省
症状の詳細は後ほど詳しく解説しますが、新型コロナ後遺症の中には、日常生活に影響するものも少なくありません。
新型コロナ後遺症は、り患中には出なかった症状が療養期間を経て回復後に新たに出現するケースとり患中から出現している症状が持続するケースがあります。
新型コロナ後遺症の症状
新型コロナ後遺症の症状は、個人差があり多種多様です。
代表的な症状である味覚障害や嗅覚障害の他にも次のような症状が確認されています。
引用:新型コロナウイルス感染症診療の手引き 別冊|厚生労働省
- 倦怠感・疲労感
- 関節痛
- 筋肉痛
- 咳
- 喀痰
- 息切れ
- 胸痛
- 脱毛
- 記憶障害
- 集中力低下
- 頭痛
- 抑うつ
- 嗅覚障害
- 味覚障害
- 動悸
- 下痢
- 腹痛
- 睡眠障害
- 筋力低下
新型コロナウイルス感染症と診断され、入院歴のある患者さん1,066人の追跡調査(2020年1月~2021年2月)をしたところ、全体の30%程度の患者さんに発症後1年経っても1つ以上の後遺症の症状が認められていることがわかりました。
また、新型コロナウイルス感染症の診断後3ヶ月時点でのコロナ後遺症の出現率を3世代別に見てみた結果は次の通りです。
- 若年者(40歳以下)…44%
- 中年者(41~64歳)…52%
- 高齢者(65歳以上)…40%
中年者が若干多いものの、若い人も4割近くの人が新型コロナ後遺症を発症しています。
若い人は新型コロナウイルス感染症に感染しても、無症状あるいは軽症で済むことが多いです。
しかし、症状が軽くても後遺症を発症する可能性もあるため、安心できるわけではないことがこの調査結果からわかります。
無症状感染・軽症でも発症例あり
新型コロナ後遺症では、無症状感染や軽症でも発症例が報告されています。
新型コロナウイルス感染症でほとんど症状が出なくても、新型コロナ後遺症も軽症とは限りません。
時として重篤な症状に陥ることがあるので注意が必要です。
新型コロナウイルス感染症の療養期間を過ぎてからすぐに症状があらわれることもあれば、発症後2~3ヶ月後に突然症状があらわれることもあります。
後遺症を発症した患者さんの中には、新型コロナウイルス感染症が無症状で、り患したことに気づかなかった人もいます。
後遺症の症状が出て初めて、病院受診し新型コロナウイルス感染症にり患したことに気づくケースもあるのです。
そのため、病院受診しても原因がわからず、病院をはしごしてしまうケースも少なくありません。
その結果、症状が長引いたり悪化したりして日常生活に支障が出てしまうこともあります。
耳鼻咽喉科でよく見られる新型コロナ後遺症とその原因
新型コロナ後遺症の症状は多岐にわたります。その中でも耳鼻咽喉科でよくみられる新型コロナ後遺症は次の通りです。
- 副鼻腔炎
- 味覚障害
- 嗅覚障害
- 慢性的な咳
それぞれ詳しく見ていきましょう。
副鼻腔炎
新型コロナウイルス感染後、「鼻水が止まらない」「粘り気のある鼻水が出る」など鼻の症状が出ている場合、副鼻腔炎を発症している恐れがあります。
急性副鼻腔炎の場合、ウイルスや細菌感染でり患することが多いからです。
新型コロナウイルスは、空気の通り道である鼻や喉の上気道に感染しやすく、鼻腔や副鼻腔炎に炎症をおこすことがあります。
すぐに治療を受けられれば問題ないのですが、軽症だったり無症状だったりすると、治療が遅れてしまったり放置してしまったりすることもあるでしょう。
その結果、新型コロナウイルスによる鼻腔や副鼻腔の炎症が長引くと、急性副鼻腔炎へと移行してしまうのです。
急性副鼻腔炎になると、鼻づまりや後鼻漏の症状が見られるため、味覚障害や嗅覚障害にも関係します。
また、しばらく続く様な咳や痰の症状をひきおこしている可能性があります。
副鼻腔炎については以下の記事をご覧ください。
味覚障害
新型コロナ後遺症の症状の1つに味覚症状があります。
味覚症状の原因の1つが血液中の亜鉛濃度の低下です。
- 新型コロナウイルスが体内に侵入
- 新型コロナウイルスを追い出そうと免疫機能が活発
- 免疫機能を発揮するため血中の亜鉛を大量消費
- 血中の亜鉛濃度が低下し味覚障害が出る
新型コロナウイルス感染症にかかると、ウイルスを追い出すため身体の免疫機能が活発化し、血中の亜鉛が多く消費されます。
その結果、り患後に亜鉛不足となり味覚症状が起きてしまいます。
嗅覚障害
新型コロナウイルス感染症のり患後に鼻水や鼻づまりの症状がなく、嗅覚障害があらわれた場合、嗅神経性嗅覚障害が疑われます。
嗅神経性嗅覚障害とは、ウイルスや細菌によって嗅神経が炎症を起こしたり、神経細胞が損傷されたりすることにより嗅覚が低下または消失する障害です。
ただ、新型コロナウイルス感染の場合においては嗅神経細胞ではなく、主にはその支持細胞に感染し、炎症を起こすと考えられています。
そのため、比較的早期に回復する例が多いと考えられています。
- 新型コロナウイルスが鼻の粘膜に感染
- 嗅粘膜の支持細胞と新型コロナウイルスが結合(一部嗅神経細胞に結合)
- 新型コロナウイルスが支持細胞にダメージを与える
- 嗅いを感じる機能が一時的に低下・消失する。ただ、嗅神経細胞にダメージが加わった場合は長期間症状を認めます。
新型コロナウイルスは、空気の通り道である鼻の粘膜に感染しやすく、嗅上皮にダメージを与えるため、嗅覚障害があらわれやすいと言われています。
新型コロナウイルスが嗅粘膜に感染すると、一臭いを感じる機能が一時的に低下します。
「もう、このまま臭いを感じなくなるのでは…」と不安になる方もいるかと思いますが、ご安心ください。
嗅粘膜や嗅粘膜の支持細胞は傷ついても再生するため、また、嗅神経細胞が障害されていないため、早期に改善することが多いです。
細胞のターンオーバー期間が過ぎる約1か月以降、少しずつ改善する割合は増加し、最終的には90%以上で回復を認めるとされています。
しかし稀に2年以上経過しても、嗅覚障害が改善しないケースもあるので注意が必要です。
この場合、嗅神経細胞に障害が生じていることが考えられます。
慢性的な咳(喉頭炎、咽頭炎)
新型コロナ後遺症の中でも、多くの人が悩まされている症状の1つが咳や喉の痛みです。
新型コロナウイルスも風邪の菌の一種なので、罹患後も咳や喉の痛みが継続するのは仕方のないことかもしれません。
また現在、感染拡大している新型コロナウイルスのオミクロン株は、ウイルスが咽頭に感染しやすいことがわかっています。
その結果、新型コロナウイルス感染症の療養期間を経ても喉頭や咽頭の炎症が治まらず、長引く咳や喉の痛みを出現させているようです。
新型コロナ後遺症の耳鼻咽喉科疾患の治療法
新型コロナ後遺症に特化した治療法は今のところなく、国内外で研究が進められている状況です。
ただ、新型コロナ後遺症の多くは、時間経過とともに改善することが多く、症状に合わせた治療がおこなわれます。
ここからは、新型コロナ後遺症で耳鼻咽喉科がおこなう治療法をご紹介します。
薬物療法
新型コロナ後遺症の薬物療法は、まだ確立された治療法とは言えません。
しかしながら、日常生活を送るうえで支障となる症状を緩和・改善する効果が期待できます。
耳鼻咽喉科では、新型コロナウイルスの症状に応じて次の薬が投与されます。
- 痛み止め:咽頭炎や副鼻腔炎の痛みなどを緩和
- 鎮咳剤:慢性的な咳を鎮める
- 抗ヒスタミン薬:鼻や喉の粘膜の炎症が続くと少しの刺激でも咳や鼻水などのアレルギー症状が出るため
- ステロイド薬(点鼻薬):内服薬は鼻や喉の炎症を抑えます。また、点鼻薬は直接的に嗅裂に作用し、炎症を抑えます。
- 亜鉛:血中の亜鉛濃度を上げる
- 漢方薬:嗅覚障害に効果があるものがあります
嗅覚トレーニング
耳鼻咽喉科では、長引く嗅覚障害に対してさまざまなにおいをかいで、においを嗅ぐ機会を増やす「嗅覚トレーニング」を行うことがあります。
嗅覚トレーニングは、2009年にドイツで臨床試験が行われた新しい治療法です。
レモン・バラ・ユーカリ・グローブの臭いを1日2回、嗅ぐトレーニングを3か月間続ける治療法になります。
発症から1年以内にトレーニングを開始することで、嗅覚神経細胞を刺激し、再生を促す効果があると期待されています。
使用する臭いの元は、上記の4種類でなくても可能です。
耳鼻咽喉科によって異なる臭素(臭いの元)が使用されることもあります。
ただ、日本人向けの嗅覚トレーニングはまだ臨床研究中で、どのような臭いが効果があるのか、嗅覚トレーニングによってどれくらい嗅覚が改善するのかの詳細についてはまだはっきりしていないのが現状です。
EAT(上咽頭擦過療法)
EAT(上咽頭擦過療法)とは、消炎剤を染み込ませた綿棒を上咽頭に擦りつける治療法です。
上咽頭には多くの神経が通っており、この部分が炎症を起こすとめまいや倦怠感、咳などの症状が表れます。
EAT(上咽頭擦過療法)で、炎症を抑えることでこれらの症状が改善したというケースが少なくないそうです。
しかしめまいや倦怠感、咳などの症状が必ずしも上咽頭炎が原因とは限りません。
よって、EAT(上咽頭擦過療法)をおこなっても改善がみられないこともあります。
またEAT(上咽頭擦過療法)をおこなっている耳鼻咽喉科は限られているので、治療をご希望の方は、事前に確認しましょう。
新型コロナ後遺症の耳鼻咽喉科疾患に関するよくある質問とその回答
新型コロナ後遺症に関するよくある質問とその回答を院長先生にお答えいただきました。新型コロナ後遺症は生活に支障がなければ放置してもよいのか?
可能であればできるだけの治療を早期より開始すべきと考えます。
新型コロナ後遺症で鼻づまりのない嗅覚・味覚障害は一般的にいつまで続くのか?
一般的には長くても半年程度とされていますが、個人差があり、数%の割合で治らない人もいます。
まとめ
新型コロナ後遺症の症状は多岐にわたります。
またやっかいなことに、新型コロナウイルス感染症が無症状でも後遺症が出現するケースも多いので注意が必要です。
後遺症のみ出現して病院受診した場合、新型コロナウイルスに罹患したかどうか、患者さん自身も医師もわからないため、コロナ後遺症だと診断できないこともあります。
そのため症状が改善せず、病院をはしごしてしまうことも少なくありません。
- 新型コロナウイルスが軽症または無症状でも後遺症が発症する可能性がある
- 新型コロナ後遺症は症状だけで診断しにくく患者さんが病院をはしごしてしまう恐れもある
- オミクロン株新型コロナウイルスでは、副鼻腔炎や咽頭炎など喉や鼻に症状が表れる後遺症が出やすい
原因不明の辛い症状や体調不良に悩んでいる方は、新型コロナ後遺症の専門機関に診てもらうとよいでしょう。
福岡県東区名島にお住まいで、長引く喉の痛みや鼻水・鼻づまりなど鼻の症状にお悩みの方は、あだち耳鼻咽喉科へお越しください。
あだち耳鼻咽喉科では、新型コロナ後遺症の耳鼻咽喉科疾患に対する診察・治療をおこなっています。
新型コロナ後遺症だと思ったら、別の耳鼻咽喉科疾患だったということも考えられますので、長引く咳や鼻水・鼻づまりの症状がある方は、早めに受診しましょう。