「子どもののどが真っ赤で熱が高い……」風邪かなと思うこのような症状は、もしかすると溶連菌感染症かもしれません。
溶連菌感染症は、冬だけでなく春から初夏にかけても流行がみられ、年間通して感染の可能性がある病気です。
「ただの風邪だろう」と放っておいたり治療が不十分だったりすると重症化のおそれだけでなく、長期の治療が必要となったり後遺症が残ったりする可能性もあります。
今回は子どもがかかりやすい溶連菌感染症について詳しく解説しましょう。
目次
溶連菌感染症とは
溶連菌感染症は正しくは「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」といい、溶血性連鎖球菌という細菌が原因の病気です。
溶血性連鎖球菌には、A群、B群、C群、G群などがありますが、約90%がA群によるものです。
この菌がおもにのどに感染し、腫れや痛みを引き起こします。
溶連菌感染症の症状
溶連菌感染症は、感染すると2~5日ほどの潜伏期を経た後、38~39℃以上の突然の発熱やのどの痛み(急性咽頭炎や扁桃炎)の症状があらわれます。
その他にも次のような症状がみられます。
- 頭痛
- 腹痛
- 嘔吐
- リンパ節の腫れ
- のどの腫れ
- 扁桃腺の白苔
- イチゴ舌
扁桃腺には白苔(はくたい)と呼ばれる、白い膿がみられることもあります。
その後、身体や手足に粟粒大の赤い発疹や、舌に赤いつぶつぶができる「いちご舌」があらわれる猩紅熱(しょうこうねつ)と呼ばれる症状があらわれることも少なくありません。
また溶連菌感染症は、一般的な風邪と異なり、咳や鼻水の症状は出にくいという特徴があります。
症状が落ち着くと、発疹の跡の皮がめくれて、剥がれ落ちていきます(落屑)。
溶連菌感染症の皮膚疾患
溶連菌はのどや鼻粘膜だけでなく、皮膚に感染することもあります。
皮膚に感染した場合、次のような皮膚疾患を起こす恐れがあるため、子どもが感染したら注意深く観察しましょう。
病名 | 症状 |
---|---|
伝染性膿痂疹(のうかしん) | 皮膚に細菌が感染することにより起こる病気で、とびひとも呼ばれます。かゆみによりかきこわした部位に細菌が感染し、飛び火するかのように症状が広がります。 |
丹毒 | 皮膚の真皮に細菌が感染し、皮膚が赤く腫れ痛む病気です。主に顔に多くみられ、重症化すると水ぶくれや内出血がみられます。 |
蜂窩織炎(ほうかしきえん) | 皮膚の真皮から皮下脂肪にかけて、細菌が感染し起こる病気です。水虫による傷口から細菌が感染しやすいため、主に下肢に症状があらわれます。 |
感染経路
溶連菌感染症のおもな感染経路は、咳やくしゃみで飛び散った細菌を吸い込んで感染する「飛沫感染」と、患者のタオルや食器などを介して感染する「接触感染」です。
感染力が非常に強く、学校や幼稚園・保育園などの集団生活はもちろんのこと、子どもから看病する大人へ感染する可能性もあります。
溶連菌感染症の流行時期
溶連菌感染症の流行時期は、11月~4月といわれています。
しかし、感染力が非常に強いことから流行時期でなくても、溶連菌にかかる可能性があり、最近では夏場も多く認められるようになったので注意が必要です。
保育園や幼稚園、学校などで溶連菌にかかった幼児や学童がいる場合は、いつも以上に感染防止に努め、風邪のような症状がみられたら、早めに病院受診しましょう。
登校・登園はいつからできる?
溶連菌感染症は、法律で定められている出席停止期間はありません。
子ども家庭庁が公開した「保育所における感染症対策ガイドライン」では抗生剤の服用後、24時間以上経っていて、症状がおさまっているようなら、登園・登校が可能だとされています。
溶連菌感染症は、抗生剤を服用すれば24時間以内に周囲への感染の可能性が低くなる病気だからです。
溶連菌感染症による発熱も、発症後3~5日で下がり、他の症状も1週間をめどにおさまります。
しかし登園・登校可能だからといって、子どもの体調が悪い中で登園・登校させるのは現実的ではないので、子どもの様子をみて、登園・登校を判断しましょう。
また、保育園や幼稚園によっては医師のサインが必要な「登園許可証」が必要など、り患後の登園に独自ルールが設けられていることもあります。
登園時は事前に確認してから、ルールに従い登園させましょう。
溶連菌に感染しやすい年齢
溶連菌感染症の感染は子どもに多く、5歳~15歳頃に多くみられる病気ですが、3才以下の乳幼児や成人も感染することはあります。
また溶連菌の症状がみられない「健康保菌者」である場合もあるため、実際は全年齢でかかりやすい感染症といえるでしょう。
ただ健康保菌者からの感染はまれと考えられています。
一度感染しても繰り返し感染することもあるため、かかったことがあるからといって油断は禁物です。
特に扁桃腺にすみついた溶連菌が体調の悪化とともに増殖し、感染症状を繰り返すような場合もあります。
そのような場合は扁桃腺を摘出する手術も検討すべきと思われます。
大人も油断してはいけない溶連菌感染症
溶連菌感染症の1つに「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」と呼ばれる病気があります。
通称「人食いバクテリア症」とも呼ばれ、発症すると急激に症状が進行し、重症化する病気です。
短時間で敗血症性ショック・多臓器不全に陥り、30%という高い致死率が報告されています。
主な初期症状は次の通りです。
- 手足の痛み・腫れ
- 高熱
- 血圧低下
- めまい
- 錯乱状態
- 広範囲の紅斑
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、子どもがかかりやすい一般的な溶連菌感染症と異なり、30歳以上の成人が感染しやすいのが特徴です。
基礎疾患がない健康な成人が突然発症することもあります。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因や感染経路、メカニズムは詳しく解明されていません。
子どもが溶連菌感染症にかかった後、風邪症状が出たり、皮膚に異常が出たりしたら、油断せずすぐに病院受診をしましょう。
一般的な溶連菌感染症であったとしても、周りに感染させてしまうため、早めの治療が重要です。
溶連菌感染症の検査方法
まず年齢や発熱具合、のどの状態、身体や手足の発疹の具合などの症状を確認し、溶連菌感染症への感染の疑いがあれば検査がおこなわれます。
溶連菌感染症の検査方法は、綿棒を使ってのどの奥の粘膜から検体をぬぐい取り、迅速診断キットを使って検査する方法です。
5~10分ほどで結果が判明し、溶連菌感染症への感染が認められれば、治療を開始します。
溶連菌感染症の治療方法
検査の結果、溶連菌感染症に感染していたら、熱やのどの痛みをやわらげる薬とともに、抗生剤が処方されます。
抗生剤は約7~10日分処方され、医師の指示通りに最後まで飲みきることが重要です。
症状がおさまってきたからといって、抗生剤を途中で飲むのをやめてしまうと、再発したり重篤な合併症を引き起こしたりするおそれがあります。
溶連菌感染症の治療が不十分なときに起こるリスク
溶連菌感染症の治療が不十分だと、次のような合併症を引き起こすリスクが高まります。
- リウマチ熱
- 急性糸球体腎炎
- 紫斑病
それでは1つずつみていきましょう。
リウマチ熱
溶連菌感染症にかかって約2週間後、高熱や関節痛を引き起こすことがあります。
膠原病のリウマチとは無関係な疾患です。
急性糸球体腎炎
急性糸球体腎炎は、溶連菌感染症にかかって約1~3週間後に発症する可能性のある病気です。次のような症状があらわれます。
- おしっこが濁る
- 血尿
- 腹痛
- 頭痛
- 足のむくみ
溶連菌による咽頭炎の1~5%で起こるとされています。
紫斑病
溶連菌感染症にかかって約1~2週間後、手足に出血斑が出たり、腫れたりすることがあります。
溶連菌感染症の予防
現在のところ溶連菌感染症に対するワクチンはないため、予防接種による感染の予防はできません。
基本的には、風邪と同じように手洗いうがいやマスクなどで予防しましょう。
免疫力が下がっていると溶連菌感染症にかかりやすいため、規則正しい生活やバランスのよい食事、十分な睡眠などを心がけることも大切です。
また、兄弟や家族に感染者が出た場合には、食器やタオルは共用せず、できるだけ濃厚接触は避けるようにしましょう。
ただ予防を徹底していても、溶連菌感染症は感染力が強いためかかってしまうこともあります。
溶連菌感染症を疑うような症状があれば、できるだけ早くかかりつけの医療機関を受診するようにしましょう。
教えて院長先生!よくある質問Q&A
溶連菌感染症についてよくある質問を院長先生にお答えいただきます。
溶連菌感染症は、大人もかかるといわれていますが子どもと症状の違いはありますか?
実感としては大人の方が軽いかなとは思います。ただ、なぜ大人の方が症状が軽いのかはわかっていません。
溶連菌感染症は自然治癒でも治る病気ですか?
自然治癒でも治る場合がありますが、さまざまな合併症のリスクを考えると、きちんと長期間抗生剤を内服すべきと考えます。
また、一部には劇症型というのもあるので、そういう意味でも抗生剤を使用すべきと思います。
まとめ
溶連菌感染症は、おもに発熱やのどの痛み、身体や手足の発疹などの症状を中心とする、子どものかかりやすい感染症のひとつです。
放っておいたり、治療が不十分だったりすると、重症化や合併症のおそれがあります。
溶連菌感染症に当てはまる症状がみられたら、すみやかに医療機関を受診しましょう。
- 溶連菌感染症は子どもが感染しやすく発熱とのどの痛みが主な症状
- 溶連菌感染症は放っておくと重症化や合併症の恐れがある
- 溶連菌感染症で処方された抗生剤は最後まで飲み切る
受診後は安静を心がけ、処方された抗生剤を決められた日数分きちんと服用することが大切です。
できるだけ感染を防ぐために、日頃から手洗いうがいなどを心がけ、規則正しい生活を送りましょう。
あだち耳鼻咽喉科でも溶連菌感染症の検査や治療ができます。名島周辺にお住まいで、気になる方はぜひ当院へお越しください。