おたふくかぜは医学的には「流行性耳下腺炎」とよばれ、1〜6歳ごろにかかりやすい病気です。
子どものころにかかった記憶がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
おたふくかぜにかかっても軽い症状で終わることが多いのですが、場合によっては合併症を引き起こし、重い後遺症が残ってしまうこともあります。
今回は、おたふくかぜの原因や症状、治療法や合併症、予防方法などを解説します。
目次
おたふくかぜの原因
おたふくかぜは、ムンプスとよばれるウイルスが唾液腺で炎症を起こすことが原因です。
強い感染力を持ち年間通して流行しますが、とくに春から夏にかけての流行がよくみられます。
感染経路には、せきやくしゃみに含まれるウイルスを吸い込む飛沫感染と、ウイルスのついた手で口や鼻に触れる接触感染とがあります。
幼稚園や保育園、小学校では集団流行が発生することも少なくありません。
おたふくかぜの症状
おたふくかぜの潜伏期間は2~3週間ほどと比較的長く、1~2週間ほどで症状は軽快することがほとんどです。
また感染したからといって必ず症状があらわれるわけではなく、症状が現れない「不顕性感染」が全体の30%ほどと多いことも特徴として挙げられます。
おたふくかぜに感染すると、次のような症状があらわれます。
- 発熱
- 耳下腺の腫れ
- 頭痛や倦怠感
発熱
突然発熱し、1~6日程度続きますが、発熱がみられない場合もあります。
耳下腺の腫れ
唾液腺が炎症を起こすことにより、耳下腺や顎下腺(耳の下からあごにかけて)の腫れがみられます。
痛みをともなう場合が多く、とくにものを飲みこむときや酸っぱいものなどを食べたときにうずくような痛みを感じることもあります。
どちらか片側の耳下腺が先に腫れ、1~2日後にもう片側が腫れるケースが一般的ですが、片側の耳下腺のみしか腫れない場合もあります。
腫れのピークは発症後1~3日後で、その後3~7日かけて消えていきます。
以前は一度感染すると免疫を獲得すると考えられていましたが、現在では再度感染する可能性があることが明らかになっています。
耳下腺の腫れはおたふくかぜの代表的な症状ですが、他の病気の可能性もあります。
その他
おたふくかぜのおもな症状は発熱と耳下腺の腫れですが、頭痛や倦怠感、食欲の低下、筋肉痛などを伴うこともあります。
おたふくかぜの合併症
軽症で治ることの多いおたふくかぜですが、合併症を引き起こすこともあります。
ウイルスがリンパや血液の流れに乗って、全身のさまざまな臓器に到達することが原因です。
合併症によっては、重症化したり後遺症が残ったりするケースも少なくないため注意が必要です。
ここからは代表的なおたふくかぜの合併症を紹介しましょう。
- ムンプス難聴
- 無菌性髄膜炎
- 脳炎
- 膵炎
- 精巣炎や卵巣炎
ムンプス難聴
ウイルスが血液の流れとともに、内耳に入り込む場合があります。
内耳は聞こえをつかさどる重要な器官のため、ウイルスに感染し機能が障害されることで、回復不能な高度の難聴となってしまうことが少なくありません。
片耳の場合が多くを占めますが、まれに両耳に発症する場合もあります。
年間700人ほどがおたふくかぜによる難聴を発症しており、全患者の500~3,500人に1人の割合でかかる、比較的発症しやすい合併症です。
また、おたふくかぜの症状が軽ければ難聴にはならない、というわけではありません。
おたふくかぜの重症度とムンプス難聴の発生とは比例するわけではなく、症状があらわれない不顕性感染であっても、難聴となる場合もあります。
ムンプス難聴は非常に治りにくいため、ワクチンによる予防が重要です。
無菌性髄膜炎
100人に1人ほどの割合がかかる合併症として多くみられるのが、無菌性髄膜炎です。
発熱や頭痛、嘔吐、けいれんなどがおもな症状として挙げられます。
耳下腺が腫れてから3~10日後くらいに発症することが多く、これらの症状がみられたら無菌性髄膜炎を疑いましょう。
ほとんどの場合は2週間ほどで回復し、後遺症が残ることもあまりありません。
脳炎
脳炎は、3,000~5,000人に1人ほどのまれな割合で発症します。
髄膜炎と似た症状の他に麻痺や意識障害などが起こり、場合によっては障害が残ったり死亡につながったりすることもあります。
膵炎
重症になる場合はまれですが、腹痛や嘔吐をともなう軽い症状を引き起こす場合があります。
精巣炎や卵巣炎
思春期以降の男性の約20~30%には精巣炎が、女性の約7%には卵巣炎がみられることもあります。
いずれの場合も、不妊の原因となる場合はあまりありません。
おたふくかぜの診断と治療法
おたふくかぜは、症状と周囲の流行状況をみることで診断されます。
場合によっては、血液検査をおこない抗体値を調べたり、特殊な検査になりますが、唾液や尿、髄液などを採取して遺伝子検査をおこなったりすることもあります。
おたふくかぜの治療は、まだ有効な抗ウイルス薬が開発されていないため、基本的に対症療法のみです。
熱や痛みに対する鎮痛解熱剤を服用し、安静に過ごすよう努めましょう。
痛みがひどい場合には冷やし、酸っぱい食べ物は避けて柔らかい食事にするとよいですね。
多くの場合、2~3日で腫れのピークを迎え、1~2週間ほどで自然に回復します。
おたふくかぜにかかってしまったら?
おたふくかぜは、学校保健安全法で第2種の感染症に定められています。
発症の約7日前から9日後頃までウイルス排出が認められます。
そのため、耳下腺などの腫れが引き、全身の状態が良好になるまでは出席停止となります。
小学校だけでなく、幼稚園や保育園においても同じです。
聞こえのチェックも忘れずに
おたふくかぜにかかったり周囲で流行ったりしている場合には、子どもの耳がきちんと聞こえているかチェックしておきましょう。
難聴になっても痛みはないため、子どもは聞こえの悪さに無自覚なことが少なくありません。
特に片耳だけのケースが多いため親も気づきにくく、小学校の就学時健診で発見される場合も多くみられます。
もし難聴の疑いを感じた場合には、耳鼻咽喉科を受診し聴力検査を受けることをおすすめします。
おたふくかぜのもっとも効果的な予防法はワクチン接種
おたふくかぜを予防するには、ワクチン接種がもっとも効果的です。
現在日本では、おたふくかぜのワクチンは任意接種となっており、接種率は30~40%程度となっています。
ワクチンを接種すれば90%以上に抗体ができ、おたふくかぜにかかる割合は1~3%ほどとなり、現在もっとも効果的な予防方法です。
しかし免疫力が低下し長期的には罹患する可能性もあります。
幼稚園や保育園などの集団生活に入る前に、ワクチンを接種して予防しておくことが大切です。
1歳から接種可能で、できれば就学前まで2回目の接種を受けることを日本小児科学会では推奨しています。
先進国の多くでは2回の定期接種が一般的になっており、おたふくかぜそのものがなくなりかけている国も少なくありません。
自治体によっては助成金が出る場合もあるので、問い合わせてみるとよいですね。
ワクチンの副反応
ワクチン接種で気になるのが副反応。
2~3週間後に発熱したり、耳下腺が腫れたりと軽いおたふくかぜのような症状が出ることもありますが、自然に治ることがほとんどです。
また、数千人に1人の割合で無菌性髄膜炎を発症したり、非常にまれですが脳炎を引き起こしたりする場合もあります。
しかし、いずれもワクチン接種せずにおたふくかぜに自然感染してかかったケースに比べ、かかる割合は非常に低く、症状も軽くすみます。
以前のおたふくかぜワクチンは、ゼラチンアレルギーを持つ子どもには注意が必要でしたが、現在では改善されアレルギーを持っていても、安心して接種できるようになっています。
おたふくかぜは大人もかかる
子どもの病気というイメージのおたふくかぜですが、免疫を持っていなければ大人でもかかることも珍しくありません。
もちろん大人のおたふくかぜでも合併症を引き起こす危険性はあり、難聴などの後遺症が残ることもあります。
また、妊娠初期に感染すると、流産の危険性があることもわかっています。
子どもの頃にワクチン接種をしたかどうか覚えていないという場合には、病院で血液検査をおこなうことで抗体値を調べることも可能です。
しかし、子どもの頃の接種では免疫が落ちてきていることも多いので、いずれにせよワクチン接種をおこなうとよいでしょう。
感染力が高いおたふくかぜは、子どもだけでなく家族全員でワクチンを接種して予防することが重要です。
一度罹患しても、また子どもの頃にワクチンを接種していても再感染がおこりうる事を知っておく必要があります。
まとめ
おたふくかぜは、症状も軽くすむことが多い病気ですが、難聴や髄膜炎といった合併症を引き起こすこともあり、場合によっては後遺症が残ってしまうこともあります。
ワクチン接種率が低いことや潜伏期間が長いこと、感染力が強く不顕性感染率が高いことなどから集団流行しやすいことも特徴です。
- おたふくかぜは子どもだけでなく抗体を持たない大人にも感染する
- おたふくかぜは合併症で治療困難な難聴になることがある
- おたふくかぜはワクチンをすることで90%以上の抗体ができる
もし、お子さんがワクチン未接種であれば、できるだけ早めにかかりつけの小児科に相談し、ワクチンを接種するようにしましょう。