麻疹(はしか)は、かつては春から初夏にかけて毎年流行していた病気です。
誰でもかかる珍しくない病気で「子どものうちにかかっておけば免疫を獲得できるから大丈夫」とまで言われていました。
しかし本来は、麻疹によって死亡したり重篤化したりする可能性もありあなどってはいけない病気す。
今回は、麻疹について原因や症状、正しい予防法などについて解説します。
目次
麻疹の原因
麻疹とは、麻疹ウイルスに感染することによって引き起こされる急性の全身感染症です。
ヒトからヒトへ極めて強い感染力を持ち、1人の発症者から12~14人に感染させるといわれています。
インフルエンザでは1人の発症者から1~2人への感染といわれているので、その感染力の強さが分かります。
感染経路は、次の通りです。
- 空気感染
- 飛沫感染
- 接触感染
麻疹の免疫がない人が感染すると、90%以上の高確率で発症します。
麻疹の症状
麻疹に感染すると約10~14日ほどで、発熱や咳、鼻水などの風邪のような症状が現れます。
風邪のような症状は、2~4日ほど続き、発症1日前からこの時期がもっとも周囲への感染力が強い時期です。
またこの時期は発疹があらわれる前なので、医師も麻疹かどうかの診断も難しく病院を受診しても風邪薬の処方のみとなることも少なくありません。
その後、39℃以上の発熱などのつらい症状とともに、全身への赤い発疹が広がります。
麻疹は重症化することも多く、入院しなければならない場合もあります。
3~4日ほど症状が続き、回復期を経て発疹が消えていきます。
しかし、回復後しばらくは抵抗力が低い状態が続き、他の感染症などにかかりやすいので手洗いうがい等の徹底が必要です。
学校保健安全法では、解熱後3日間経過までは出席停止とされています。
合併症を起こすリスク
麻疹にかかると、合併症を引き起こす可能性も多くあります。
肺炎や中耳炎といった合併症の他にも、1,000人に1人の割合で脳炎を発症したり死亡したりすることもあります。
また数10万人に1人という低い割合ですが、乳幼児期に麻疹に感染すると脳内にウイルスが入り込み、数年の潜伏期間の後、亜急性硬化性全脳炎と呼ばれる難病にかかることもあります。
徐々に脳の機能が低下していき、寝たきりになってしまう症状で、その多くが学童期に発症する痛ましい病気です。
妊娠中に麻疹にかかると?
妊娠中は、普段よりも抵抗力が弱いため、麻疹にかかると重症化したり、合併症を引き起こしたりすることがあります。
また、流産や早産のリスクも高まります。麻疹にかかった妊婦の約30%に流産や早産が見られ、その多くが妊婦に発疹があらわれてから2週間以内に起こっています。
麻疹の合併症については、以下の記事にも詳しく書かれているのでご覧ください。

麻疹の症状が軽い人もいる?
麻疹に対する免疫を持ってはいるけれど十分ではない場合、典型的な麻疹の症状よりも軽い症状があらわれることがあります。これを、「修飾麻疹」と呼びます。
特徴は、潜伏期間が長い、高熱がでない、発熱期間が短い、発疹が手足のみ、など。
感染力は弱いものの、周囲へ感染することもあるので注意が必要です。
麻疹の治療法
麻疹への有効な治療法は、未だありません。あらわれる症状に対しておこなう対症療法のみです。
家庭での対策としては、発熱で大量の汗が出るので、こまめな水分補給を心がけましょう。
また、熱が高いときは布団で体を温めすぎず、氷枕などを使いましょう。
合併症を引き起こすこともあるので、症状の経過にも注意が必要です。
呼吸が苦しそうなときや発疹が出てから4日を過ぎても熱が下がらない、意識がはっきりしないなどの場合には、速やかに医師に相談するようにしましょう。
麻疹を予防するには
麻疹は極めて感染力が強いため、手洗いマスクだけでは予防できません。
麻疹ワクチンの予防接種がもっとも効果的です。
1回のワクチン接種で約95%の人が、2回の接種で約99%の人が免疫を獲得できると言われています。
緊急対策として、麻疹にかかった人に接触してすぐの場合には、72時間以内に麻疹ワクチンを接種することで、発症を防いだり症状を抑えたりすることが期待できます。
合併症や重症化リスクの高い乳幼児の場合には、接種を検討することをおすすめします。
また、接触後5~6日以内であればガンマグロブリンの注射を受けることで発症を抑えられる可能性がありますが、副作用のリスクもあるため必要な場合には、医師にしっかりと相談することが大切です。
ワクチンを受けるべき人は?
麻疹のワクチン接種は、MRワクチン(麻疹風しん混合ワクチン)として、1歳児と小学校入学前(年長)が定期接種対象者です。
平成2年4月2日以降に生まれた人は、定期接種として2回のMRワクチン接種が受けられるようになりました。
しかしそれ以前に生まれている場合には、1回の接種のみがほとんどで免疫が強化されておらず、経過年数とともに免疫も弱くなっている場合も少なくありません。
接種が1回のみの医療従事者や学校、保育、福祉関係者、流行国への渡航者などは、ワクチン接種の検討を医師とともに考えることが必要です。
ワクチンを受けられない人もいる?
ワクチン接種で予防できる麻疹ですが、妊娠中の女性はお腹の赤ちゃんへ影響する場合があるため、接種することができません。
また、ワクチン未接種で妊娠を考えているなら、早めに接種することをおすすめします。ただし、接種後2ヶ月は、避妊が必要なので注意しましょう。
家族に妊婦がいるなら、家庭内に麻疹が持ち込まれるのを防ぐためにも、家族がワクチンを受けることも必要です。
麻疹のワクチンは受けるべき?
麻疹は珍しい病気ではないため、今でもワクチンを接種するよりも自然にかかって免疫を獲得する方がよいと考える人も多くいます。
しかし実際は、死に至ることもあり、合併症により重症化し、後遺症が残ることもある怖い病気です。
確かに、ワクチン接種による副作用のリスクもありますが、自然に麻疹にかかった場合のリスクに比べると遥かに少ないものです。
麻疹を唯一予防する方法として、ワクチンをきちんと接種するようにしましょう。
麻疹についてよくある質問
ここからは、麻疹についてよくある質問とその回答をご紹介します。麻疹にかかったかも、と思ったら?
発熱、発疹など、麻疹かもしれないと思う症状が出た場合には、まず受診しようとしている医療機関に電話で相談し、指示を仰ぎましょう。
受診の際にも、周囲への感染を防ぐために、公共交通機関の利用は可能な限り避けます。
麻疹はまだ流行っているの?
日本国内での麻疹の発生状況は、以前に比べて大きく減少しました。それは、ワクチンの定期接種化などによる成果です。
その結果、平成27年にWHO西太平洋事務局は、日本に土着の麻疹ウイルスは過去3年に渡って存在してないとして「麻疹の排除状態にある」と認定しました。
しかし平成30年4月、海外からの旅行者により沖縄で麻疹の集団感染が発生しています。
このように国内は麻疹の排除状態であっても、海外では未だ麻疹が流行している国も多くあり、持ち込まれる可能性は低くはありません。
外国との交流が密になるほど、麻疹をはじめとする感染症に対するリスクも生じてしまいます。
しかし、もし海外からのウイルスに接触しても、ワクチン接種を正しく済ませていれば、高い確率で感染することはありません。
これからさらに海外との交流が盛んになっていくことも考えられるため、麻疹をはじめとする感染症のワクチン接種は重要となります。
まとめ
ひと昔前は、「近所の子どもが麻疹にかかると、免疫をつけるためにみんなでもらいに行っていた」などということもありました。
しかし、麻疹は子どものかかる感染症の中でも重いもののひとつ。免疫を獲得するために麻疹に感染して、重症化したり後遺症が残ってしまったりしては元も子もありません。
- 麻疹の感染力は強く通常の風邪予防では防ぐのが難しい
- 幼少期に麻疹にかかると脳症や難病を発症する恐れがある
- 麻疹の予防はワクチン接種が効果的
1歳になったらなるべく早く第1期のMRワクチンを接種し、小学校入学前にも忘れずに第2期の接種を受けましょう。
麻疹くらい大丈夫、と甘く見ずに、しっかりとワクチン接種で予防することが大切です。
