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APD(聴覚情報処理障害)/Lid(聞き取り困難症)とは?症状チェック・原因・診断・対処法を解説

「聞こえているはずなのに、会話の内容が頭に入ってこない」「聞き返すことが多くて申し訳ない」そんな経験が続いているなら、APD(聴覚情報処理障害)の可能性があるかもしれません。

APDは聴力に問題がないにもかかわらず音の聞き取りが難しくなる状態で、通常の聴力検査では異常が見つからないため見落とされやすい症状です。

APDの症状チェックリストをはじめ、原因・診断方法・日常生活での対処法まで耳鼻咽喉科の医師が解説します。

APD(聴覚情報処理障害)とは

APD(聴覚情報処理障害)とは、聴力に問題がないにもかかわらず、日常生活のさまざまな場面で聞き取りづらさが生じる状態のことです。

正式名称は「Auditory Processing Disorder」といい、近年では「聞き取り困難症(LiD)」とも呼ばれています。

私たちが音を認識するまでには、耳が音を集めてから脳が処理するまでの複数のステップがあります。

APD/Lidの場合、耳の機能自体には異常がなく音を聞くことはできますが、脳内で音を処理する部分に何らかの問題があるため、「聞こえているのに理解できない」という状態が生じます。

ただ、APD/LiDは疾患ではなく、あくまでも個人の特性であるということを理解する必要があります。例えばかけっこが早い人も遅い人もいるというような、個人の性質ということです。

音を認知するまでのメカニズム
  1. 外耳が音を集める
  2. 中耳に音が伝わると鼓膜が振動する
  3. 中耳内にある3つの骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)によって音が増幅
  4. 内耳にある蝸牛(かぎゅう)で音を電気信号に変換
  5. 電気信号は脳神経を伝わり脳へ
  6. 脳内の視床により、電気信号が音の種類を選別
  7. 選別された音が聴覚野に届き、音が認識される

つまりAPD/Lidは「耳の病気」ではなく、「脳の音処理の問題」です。

そのため通常の聴力検査では異常が見つからず、本人も周囲も原因に気づきにくいのが特徴です。

難聴との違い

APD/Lidと難聴はどちらも「聞き取りにくい」という共通した症状がありますが、問題が起きている場所が異なります。

APD/Lid難聴
問題の場所脳内の音処理耳の器官
聴力検査異常なし異常あり
音は届くか届く届きにくい
聞き取りにくさありあり

APD/Lidでは聴力検査をしても異常は見つからず、難聴として見落とされてしまうことがあるため注意が必要です。です。

聞き取りにくさの症状があるにもかかわらず聴力検査で「異常なし」と診断された場合は、APD/Lidの可能性も視野に入れて専門医に相談することをおすすめします。

APD/Lidの症状チェックリスト

「聞こえているはずなのに理解できない」「聞き返すことが多い」と感じている方は、以下のチェックリストで確認してみましょう。

AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)が2024年に発刊した「LiD / APD診断と支援の手引き(2024 第一版)」には、15歳以上と小児用の2種類のチェックリストが掲載されています。

15歳以上のチェックリスト

LiD / APD診断と支援の手引き(2024 第一版)

小児用のチェックリスト

LiD / APD診断と支援の手引き(2024 第一版)

各項目には点数が設定されており、一定の基準を超えた場合はAPD/Lidの可能性が高いと判断されます。

ただしこのチェックリストはあくまでも判断の目安になります。

チェックリストの結果だけでAPD/Lidと診断されることはなく、専門医による問診や検査を受けることが必要です。

「当てはまる項目が多い」と感じた方は、まず耳鼻咽喉科へご相談ください。

APD/Lidの原因

APD/Lidは1つの原因で説明できるものではなく、脳が音を処理する仕組みや、注意・記憶・言語といった複数の背景要因が影響して起こると考えられています。

ここでは、研究で示されているAPD/Lidと関連しやすい背景要因を紹介します。

発達障害が併発しているケース

ASD(自閉スペクトラム症)やADHDなどの発達障害は、聴覚的注意や情報処理に特徴がみられることがあり、聞き取りにくさを自覚しやすい場合があります。

LiD / APD診断と支援の手引き(2024 第一版)」によると、APD/Lidの子どもの約8割に発達の「凸凹」がみられ、注意やワーキングメモリ、音への順応のしにくさなどが聞き取りに影響していると推測されています。

ASDでは雑音を抑えて必要な音を選ぶことが難しく、ADHDでは注意の維持や切り替えが苦手なため、聞き返しや聞き間違いが起こりやすくなります。

発達障害はAPD/Lidの原因というより、聞き取りの困難さを強めやすい背景要因の1つと考えられています。

注意力・ワーキングメモリの偏り

APD/Lidの方は言語理解や知覚推理の力は保たれている一方で、ワーキングメモリの得点が低い傾向があると報告されています。

ワーキングメモリとは、会話中に聞いた言葉を一時的に保持しながら理解する力のことです。

この力が弱いと、長い説明を聞くと後半の内容が抜けてしまう、複数の指示をまとめて伝えられると混乱するといった場面が起こりやすくなります。

また注意の向け方にも特徴があり、集中を持続することや必要な音にだけ注意を向ける「選択的注意」が苦手な場合もあります。

こうした認知的な負担が重なることで、聴力が正常でも聞き取りにくさを自覚しやすくなるのです。

聴覚過敏・音への順応の困難

ASDのある人は周囲の雑音に「慣れる」力が弱く、不要な音がいつまでも耳に入り続けてしまう特徴があります。

そのため本来聞き取りたい声よりも環境音の存在感が強くなり、必要な音へ注意を向けにくくなります。

また音への感受性が高いことで些細な物音でも気が散りやすく、教室・職場・公共の場などで集中が途切れやすくなります。

こうした特性が重なることで、雑音下での聞き取りが他の人よりも難しく感じられる場合があります。

心理的な背景(ストレス・不安など)

ストレスや不安といった心理的背景も、聞き取り困難を強める要因の1つです。

純音聴力検査では異常がないにもかかわらず「聞こえにくい」と感じる状態が生まれることがあり、その背景には学校や職場での人間関係、家庭環境のストレスなどが関わることがわかっています。

ストレスや不安が注意の向けにくさや集中の途切れやすさを引き起こし、結果として雑音下での聞き取りや長い話の理解をいっそう難しくすると考えられています。

APD/Lidの診断方法

現在、日本ではAPD/Lidの診断基準が統一されておらず、APD/Lidを専門に診られる医療機関もまだ多くありません。そのため適切な診断を受けるまでに時間がかかるケースもあるのが現状です。

聞き取りにくさを感じたらまず耳鼻咽喉科へ

聞き取りにくさを感じたら、まず耳鼻咽喉科を受診しましょう。

聞こえづらさの症状が出る病気や障害はさまざまで、APD/Lid以外の可能性もあるためです。

耳鼻咽喉科では聴力検査を行い、難聴など耳の異常がないかを確認します。

検査の結果、聴力に問題がないと診断されたうえで、以下のような条件を満たした場合にAPD/Lidと診断されます。

  • 通常の聴力検査が正常であること
  • APD/Lid専用の聞き取り検査で一定の基準から外れること
  • 語音聴力検査が正常範囲であること
  • 聞き取りにくさを比較していること

診断の流れ

耳鼻咽喉科で聴力に問題なしと診断された後も症状が続く場合は、APD/Lidの専門的な検査が可能な医療機関へのセカンドオピニオンを検討しましょう。

専門医による診断では、先ほどご紹介したチェックリストに加え、雑音下での聞き取り検査や問診などを組み合わせて総合的に判断します。

なお、APD/Lidは発達障害や心理的な要因が背景にある場合もあるため、必要に応じて他科との連携が行われることもあります。

APD/Lidの対処法

現在のところ、APD/Lidの根本的な治療法は見つかっていません。

しかし聞き取りにくさを軽減するための対処法はいくつかあり、日常生活での工夫や周囲の協力によって症状の改善が期待できます。

環境調整

APD/Lidの方は雑音の多い環境で症状が悪化しやすいため、まず生活環境の中から雑音を減らす工夫をしましょう。

自宅では家族と話すときにテレビやラジオを消す、椅子やテーブルにカバーをつけて生活音を減らすといった対策が効果的です。

職場や学校では、周囲の人に「聞こえにくい」ことを理解してもらい、以下のような配慮をお願いすることも大切です。

  • 大切な話をするときは静かな場所に移動する
  • ゆっくりと大きな声で話してもらう
  • 必要に応じて繰り返して伝えてもらう
  • 話しかけるときは肩をたたくなど視覚的なサインを使ってもらう

なお、APD/Lidであることを周囲に伝える手段として「コアラくんマーク」という取り組みもあります(https://apd-mark.com)。

補助手段の利用

日常の聞き取りにくさをサポートする道具やアプリを活用するのも有効です。

会話の内容が聞き取りづらい場合は、音声を認識してリアルタイムで文字に変換するアプリが役立ちます。

聞き取れなかった部分を聞き返すことなく確認できるため、コミュニケーションの負担が軽減されます。

会議や複数人での会話にはボイスレコーダーの使用もおすすめです。

また近年の補聴器には雑音を除去する機能が搭載されているものもあり、耳に異常がない場合でも聞き取りにくさの改善に役立つことがあります。

聴覚トレーニング

聞き取りの訓練を継続することで、症状の改善が期待できます。最も基本的なトレーニングは人と積極的に会話することです。

聞き取りにくさを周囲に気づかれることへの不安から会話を避けてしまう方もいますが、会話の機会を減らすとトレーニングの機会も失われ、症状が悪化しやすくなります。

無理のない範囲で、日常的にコミュニケーションをとる習慣を大切にしましょう。

心理的な支援

ストレスや不安が背景にある場合は、カウンセリングなど心理的な支援も有効です。

APD/Lidの方は「聞き取れない自分が悪い」と感じたり、周囲から誤解されたりすることで強いストレスを抱えやすい傾向があります。症状そのものへの対処と並行して、心理的なサポートを受けることも回復への大切な一歩です。

症状そのものへの対処と並行して、心理的なサポートを受けることも回復への大切な一歩です。

よくある質問

聴覚情報処理障害に関するよくある質問とその回答を院長先生にお答えいただきました。

トレーニングで改善しますか?

改善したという報告は認めますが、明らかなエビデンスは確立されていません。

年齢とともに悪化しますか?

加齢とともに聴力が悪化していくという意味において、悪化することは予想されます。

まとめ

APD(聴覚情報処理障害)/Lid(聞き取り困難症)は、聴力に問題がないにもかかわらず音の聞き取りが難しくなる状態で、耳ではなく脳内の音処理に問題があることで生じます。

発達障害やワーキングメモリの偏り、心理的なストレスなど複数の要因が絡み合って起こるため、原因の特定が難しいのが現状です。

まとめ
  • APD/Lidは耳の異常ではなく脳内の音処理の問題で起こる
  • 聴力検査では異常が出ないため見落とされやすい
  • 根本的な治療法はないが環境調整・補助手段・トレーニングで改善が期待できる

現在、日本ではAPD/Lidの認知度や専門医療機関がまだ十分ではありません。

聞き取りにくさでお悩みの方は、まず耳鼻咽喉科を受診して難聴など他の疾患の可能性を確認することが大切です。

福岡市東区名島にお住まいで、聞き取りにくさでお悩みの方はあだち耳鼻咽喉科へお越しください。

あだち耳鼻咽喉科では、難聴検査や聴覚情報処理障害の問診・簡単な検査が可能です。

他院で「異常なし」と診断された場合でも、APD/Lidや別の疾患が見つかることがあります。ひとりで抱え込まず、お気軽にご相談ください。

ABOUT ME
【執筆・監修】医療法人あだち耳鼻咽喉科 院長 安達一雄
日本耳鼻咽喉科学会 / 専門医・指導医 身体障害者福祉法第15条指定医
補聴器認定医 / 補聴器適合判定医 / 九州大学耳鼻咽喉科 特任助教
国際医療福祉大学非常勤講師