めまいは女性に多く、その原因はさまざまです。
「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」は数多くあるめまい疾患のなかでももっとも多くを占め、とくに中高年の女性に多くみられます。また、更年期の女性が男性の5−10倍多いとも言われています。
元サッカー選手の澤穂希さんがかかった病気としても有名なので、ご存じの方も多いのではないでしょうか?
視界が回り、ふわふわとしためまいやふらつき、吐き気に不安を覚えるかもしれませんが、基本的には治療しやすい病気で、あまり心配はいりません。
今回は良性発作性頭位めまい症をテーマに、原因や症状、治療法や自宅でできる予防法などについて詳しく解説します。
目次
良性発作性頭位めまい症の原因は「耳石」の移動
良性発作性頭位めまい症は、実際にしている姿勢とは違う情報が神経を通じて脳に送られることで起こります。
たとえば、体は起き上がっているのに、脳が体は横になっていると判断しているような状態です。
これは本来なら「耳石器」にあるはずの小さな砂つぶのような「耳石」が、何らかの原因ではがれ落ち、半規管内へ入り込んでしまうことが原因です。
半規管は体のバランスをつかさどる器官で、3つの半円状のループから成り立っており、それぞれ前後・左右・上下の平衡感覚に関連しています。
耳石がいずれかの半規管に入り込み、体位により移動することで、中を満たしている内リンパ液が動き、神経の一部がその動きを感じて脳に伝え、めまいが起こるという場合と、クプラ(リンパの流れを感知する神経)に付着し、体位の変化により耳石が傾くことによりクプラを刺激することによりめまいが起こる場合があります。
これらは頭を強く打ったり、寝たきりだったりすることでも起こります。
澤選手のケースでは、プレイ中のヘディングの影響が大きかったといわれています。
また更年期以降の女性に多いことから、加齢や女性ホルモンの低下も関連しているのではないかと考えられています。
良性発作性頭位めまい症のおもな症状は、回転性のめまいと吐き気
良性発作性頭位めまい症の症状は、視界がぐるぐると回るようなめまいと吐き気や嘔吐が中心です。
めまいは数秒〜長くても2、3分程度と短い時間ですが、何度も繰り返し、立っていられなくなるような場合も少なくありません。
めまいや吐き気、嘔吐の他に症状が出ることはあまりなく、難聴や耳鳴りなどはないことも特徴です。
つらい症状の場合も多いですが、「良性」であるため悪化することは少なく、後遺症や命の危険性もありません。
めまいの他にこんな症状が出たら要注意
良性発作性頭位めまい症の他にも、めまいを誘発する疾患は多岐にわたります。
生命の危険も「悪性頭位めまい症」
めまい発作とともに次のような症状があらわれた場合は耳が原因ではなく、小脳の出血や梗塞、腫瘍などによる、脳が原因の「悪性頭位めまい症(中枢性めまい)」のケースがあります。
- ろれつがまわらない
- 手足に力が入りにくい
- ものが二重になって見える
- 麻痺やしびれをともなう
- 激しい頭痛がある
生命の危険にもかかわるため、めまいとともにこのような症状がみられたら、すみやかに医療機関を受診しましょう。
良性発作性頭位めまい症の検査
良性発作性頭位めまい症ではおもに眼振検査(眼球の動きを観察する検査)がおこなわれます。
眼球を拡大して診ることができるフレンツェル眼鏡をかけた、直接あるいは小型のCCDカメラを使ったりして眼球の動きを観察すると、耳石が半規管のどこに入り込んでいるのかを判断することができる場合もあり、診断の根拠となります。
また良性発作性頭位めまい症では難聴の症状がほとんどあらわれないため、聴力の検査をおこない、他のめまい疾患ではないかどうか確認することもあります。
良性発作性頭位めまい症の治療法
良性発作性頭位めまい症は特別な治療をおこなわなくても、数日から2週間ほどで症状が改善していく場合がほとんどです。
原因となる部位(左右およびどの半規管か)が明らかになった場合は、移動した耳石を元の位置に戻す、耳石置換法と呼ばれる治療方法をおこなうことで、より早く症状を改善することができます。
これは眼球の動きから耳石がどこに迷い込んでいるのかを判断し、患者の頭を上下や左右にゆっくりと動かして耳石を半規管から追い出す方法です。
ただし首や腰に病気がある場合には、この方法で治療することはできないので注意が必要です。
また、平衡訓練やリハビリなどの理学療法が有効な場合もあります。
良性発作性頭位めまい症は耳石の移動という物理的な原因のため、薬物療法ではあまり効果がない場合もあります。
しかし症状が強い・長期化しているといったケースでは、抗めまい剤や制吐剤など、症状を緩和する薬が処方されることも少なくありません。
良性発作性頭位めまい症の自宅でできる予防法
良性発作性頭位めまい症を起こさないためには、耳石が半規管に入ることを防ぐのが大切です。
そのためには日常生活のなかで、次のような点に注意しましょう。
いつも同じ方向で横にならない
寝るときなどいつも同じ方向を向いて横になっていると、下側の耳の半規管に耳石が入り込みやすくなってしまいます。
テレビを見る際も、横になりずっと同じ姿勢で見ることは避けるようにしましょう。
枕を高くして寝る
寝る際には高めの枕を使うと、耳石が半規管に入り込みにくくなるためおすすめです。
積極的に体を動かす
良性発作性頭位めまい症は、パソコン作業など同じ姿勢のままでいることや運動不足が原因の場合もあります。
そのため頭を動かしたり、寝返りを繰り返す運動をしたりすることも効果的です。
運動不足を解消するために、積極的に体を動かしたいものですね。
まためまいが起こると恐怖心からじっとしてしまう場合が多いようですが、耳石を半規管から追い出すためにも、無理のない程度にめまいのする方向に頭を傾けるとよいでしょう。
重度の良性発作性頭位めまい症の場合は手術も
まれに1年以上再発を繰り返す、眼振(眼球の揺れ)が止まらないといった日常生活に強く影響を及ぼす難治性のケースもあり、その場合には手術を検討することもあります。
「半規管遮断法」という方法でおこなわれ、半規管のリンパの流れを遮断することで耳石が半規管の中を浮遊しないようにする手術です。
まとめ
良性発作性頭位めまい症は治療をおこないやすい病気ではありますが、重度のめまいを引き起こすこともあるつらい症状が特徴です。
自然治癒する場合も多いですが、つらいめまいや吐き気があるなら、耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。
また一概にめまいとはいっても、さまざまな病気や脳が原因である悪性頭位めまい症の場合もあるため、自己判断は危険です。
気になる症状があれば、できるだけ早く医師に相談しましょう。
